近所の池にオオバンが戻り、枯れ葉を付けた木々はカサカサと音を立てた。
歩く度に光の速さを感じて、世界はこんなにも美しいと思うのに、いつもどこかで悲しい出来事が起こっている。
昔。荒木さんに、わたしの写真には愛しかないと言われたことがあった。
当時のわたしは東京でカメラマンとしてやっていきたくて、そう言われたことがどこか悔しかったのを覚えている。
それなのに、今はそれだけでいいかな…なんて。
駅までの道で。まぶしい空を仰いだら、幾つもの飛行機雲。
それはいつか見た写真集のパリの上空みたい。
マルク・リブーさんからもらった手紙にはこう書かれてあった。
「一度、写真家になると決めたならば、決してやめてはいけませんよ」
止まっていた八年が過ぎて、動き出した今、おまじないのようにこの言葉を唱える。
リブーさんが今のわたしの写真を見ても、ブレッソンに出会った日のことを思い出してくれるかどうかはわからないけれど、けれど、まだまだ遠かった世界をぎゅっと近くに感じさせてくれた人だった。
わたしは自分のこの弱さやかっこ悪さを、優しさに変えていけたらいいなと思う。それを少しずつ写真にも写していけたらいいなって。ずっと思ってきたことだけれど、今本当に思う。
そして、いつか。いつかでいいから、貴方と生きていけますように。