夜、「おやすみ」を言いに行ったアトリエで、翌朝、魔法がかかってしまったかのような…息が止まってしまいそうになるほど胸が高鳴っていく…そんな感情を抱くことがあります。
昨夜まではベールに包まれていたその姿が、はっきりとしたかたちとなって、ずっと昔からそこにあったみたいに、威厳として佇んでいる…
絵が完成した瞬間です。
わたしは暫くアトリエの入口に立ち尽くして、近づくのはまだ怖くて、この気持ちをシゲルさんにどうやって伝えたらいいだろうかと考える。
だけど言葉では表しきれなくて…いや、きちんと言葉にして伝えられたら、それはとても素晴らしいことだけど…。
わたしはアトリエの扉を静かに閉めて、居間のカーテンを開けに行く。
いつものようにシゲルさんの弁当を拵えて、湯を沸かし、朝ごはんの支度をする。
食卓にごはんを並べ終えたら、うんと優しくシゲルさんを起こして、「絵観たよ」とだけ伝えよう。
そんな姿勢で、伝えられたらいいのに。