【夏筆記、肆。】
十時二十三分、近鉄難波駅。東改札口。姿より先に、大きくて真っ白なスーツケース。「おはようございます」「こんにちは」。「昨夜は眠れましたか?」「目覚ましよりも前に起きました」。スーツケースの重量は二十八キロ。それでも、「冬物は、また送ってもらいます」。「コインロッカーに入るかな」。ビックカメラ。同じFUJIのフィルム。携帯電話とパソコンを繋ぐケーブル。心斎橋。直射日光、容赦なし。銀行、涼しい。少し早めのお昼ごはん。何を食べたいか聞くと、ちゃんと答えてくれるところが好き。なんだか受験生みたいだな、トンカツ。花火大会の動画。甥っ子姪っ子、写真見せ合いっこ。嬉しい言葉、何気ない。楠公さんのお守り。旅行、健康、交通…考えて、交通安全。携帯電話に結ばれる。友達からの電話。その姿、あったかい。お店から出ると、重い夏の空気。御堂筋線。梅田駅。阪急電車。路線図の前で自宅の最寄り駅を指差す。「あの、ブルーのラインのところの…」「ホントだ…」。京都線特急は旅行気分。青い空と流れる街の風景。鞄から、ふたりの写真。うたた寝。終点、河原町。蒸される、京都。59系統バス。窓から見える大文字。これは左大文字かなァ…。ゆるい冷房の風に揺れる髪。よく眠っている。竜安寺。「十年ぶりです」「わたしは三年ぶりです」。アイスコーヒー、グリンティー。青いもみじ。裸足にひんやり床の感触。石庭って、こんなんだったっけな。「座って見ると、また変わりますね」。切り取られた青い空。大きな襖。ふかふかの苔。「冬がいいですね」。出口に向かうまでの木漏れ日。セルフタイマー。鏡容池。RICHOオートハーフ。帰りは、バスをやめて京福電車。駅までの道。「あともう少ししかないですけど…」「はい」。繋がれた手は、互いにもう暫くは握り合えない事を知っている。