十三から乗って来たおばあさんに席を立つ。
西宮北口で一気に乗客が減ると、おばあさんは扉の所に立っていたわたしを呼んで、にこにことした顔をしながら自分の子供達の話を始めた。
息子のことを「男の子方はね」と言い、娘のことを「女の子の方はね」と言う。
その話に頷きながら、ああ…男の子と女の子と言ったってうんと歳をとっていて母と同じくらいの年齢なのだろうなぁ…と思う。
三宮で降りていくおばあさんが「ありがとう。じゃあ、またね」なんて…ばあちゃん、もう会えないよ。
雨は一日止まなかった。
寒の戻りを感じて、マフラーを巻くと少し安心をする。
前に座った女性は鞄を二つ。
小さなブランドの鞄と高価な化粧品の綺麗な紙袋ではなくて、マチの広いしっかりとした鞄にナイロンバックだ。
「好きだよ」と、心の中で言う。
電車は揺れて、地下へと入っていく。
イヤホンからの音量を少し上げる。
「ねぇいいでしょ こんな ままでも」って歌ってる。
それ、今わたしが言いたい。
泣きたい気もするが、気づかないふりをしておこう。