旅は二日目。けれども帰路を急がなくてはいけないような一日。
そんな中でも幾つかの行きたい場所を選び出し、準備してきた地図を辿りながら向かっていく。
夢みるような喫茶店で、想い焦がれたコーヒーフロート。お会計を済ませて店を出る時にうずうずとしてしまい、鼻息をふんがふんがと荒立てて「すごく素敵でしたっ!」と思わずマスターに言ってしまった。咄嗟の愛の告白のようだった。
ふと見えてきた煙突にシゲルさんが車を走らせると、小さな港に辿り着く。今日も空は晴れており、造船所らしき工場から聞こえてくる音が気持ちをふわっと持ち上げた。旅心をそそる、あの感じ。キャサリン・ヘプバーンにでもなれそうで…。
少し街までやって来て、“富士商店”と名の付いた文具店。あれもこれも欲しくなり、わけがわからなくなってしまう。シゲルさんに「それは必要ないと思うなぁ」などと抑えをきかせてもらいながら買い物をしたのだった。
絶えずにぎわいをみせていたパン屋へは、ちょうどお昼過ぎに着く。ゆっくりとお昼ごはんを食べている時間はなかったので、ここでぴちぴちと若い娘のように艶やかなパンを買い、昼食にする事にした。美味しいパン屋は幾つもあって、そんなに驚きもないのかなと思っていたけれど、頬張る毎にそれはそれは美味しくて、シゲルさんと夢中になってかじり付いてしまう。「シゲルさんの一口は大きいんだってばー」なんてぼやきながら。
後は知らない道を、車はうちへと向けて走る走る。
旅の終わりにはいつだって、まだうちに着かなければいいのにと思う。それなのにうちに着いた途端言葉にするのは、「やっぱりうちが一番や〜」だなんて。