シゲルさんはおばあちゃんが大好きだったと、よく懐かしそうに嬉しそうに話してくれます。
そんなおばあちゃんは、シゲルさんがアメリカへ発つ直前に亡くなりました。
そして。今でも「あのアメリカは、おばあちゃんが連れて行ってくれたんだ」と言います。
日本に帰国して、どっと押し迫る現実の忙しさと闘いながら、あっという間に月日は経って、シゲルさんはずっとおばあちゃんのお墓参りへ行けていないことを気にかけていました。
そんなわたし達が新婚旅行の行き先に選んだのが、おばあちゃんのお墓参りです。


空は驚く程に澄み渡って、空気が変わっていくことに気づく。
沢山の料理でもてなしてもらいながら、ああ…わたしはお嫁さんなのだなぁ…と、当たり前のことを思った。
伯父さん伯母さんと共に、おばあちゃんの墓へと参る。
お線香が風に吹かれて舞い上がり、紫菊がカサカサと音を立てる。高台から望む、小さくて広い町。
シゲルさんに流れている血のルーツを知った。
小さくなっていく伯父さんと伯母さんの家。天竜川を渡る。
車は更に北上して、大木島写真館。
写真学校時代の同級生の店を訪ねた。
驚かせようと内緒にしていたのに、店へ入ると「ああ、いらっしゃい」と昨日も会ったみたいに出迎えられる。
変わってないなぁ…と、笑顔がこぼれた。
立派な写真館は白く開放的で、地元の人達でにぎわっている。
勝手に写真を撮り歩くわたしを放っておいて、友人のわもんとシゲルさんは初めてじゃないみたいにのんびりと話しをし、時折そんな二人を目で確認しては「嬉しいねぇ」と思う。
暖炉が自慢のナイスな新居にも上がり込んで、パシャパシャと写真を撮った。奥さん、ごめんなさい…
「うちはいつもこんな感じだから」と、わもんは朗らかに笑って、その笑顔をシゲルさんと眺めながら、日本のどこかに訪ねられる友人がいるのは嬉しいものだなぁ…と、しみじみ思う。
夜は真っ暗。
知らない町の宿で、伯父さんと伯母さんに持たせてもらったぶどうを頬張る。
肩を寄せ合い「美味しいね」「美味しいね」と、ふたりの声が狭い部屋でこだました。


二日目へ。