赤い彼岸花とまだ青い実を付けた栗の木が、何度となく風に揺れる。
野山を抜けて、幾つかの川を渡り、里帰り出産をするえみちゃんに会いに三重までやって来た。
晴れ渡った風の強い日で、木々の枝が折れ、立て看板やのぼりの旗が倒される。
それでも城下町を歩くのは気持ちよく、「あの店で、よくコロッケを買っていたんだよ」などと話してくれる思い出話に気持ちが和む。
以前にも訪れたことのあるcafe Tomiyamaは、隅々までが凛と美しく、またここへ来る用を見つけたくなってしまう。
いつもと変わらない、二人だけの和やかな時間。それでも、この十日後には元気な男の子が誕生することとなる。その不思議さ、この胸の高鳴り。
えみちゃんの腹を何度も摩り、出産の無事を願ってお守りを渡した。
帰りは、いつでもあっという間に訪れる。
えみちゃんが持たせてくれた銘菓の最中は、写真も撮らずに食べてしまった。