押し入れで指を詰まらせて、怪我をした。
何故だか悔しくて、痛みを堪えた。
怖い夢をみた朝、沢山の水を飲む事にしている。
悲しかった過去は、こんなふうにしてふいに思い出されてしまうのだな。
「先生のお名前、なんて言うの??」と少し照れくさそうに聞いてきた少女は、懸命に国語辞典でわたしの名前を探している。フルネームをだ。
そこにわたしのフルネームは載っていないと思うけど、けど、ありがとう。
その少女は、日本に来てまだ一年だと聞いた。
沢山ペケ印のついた答案用紙を見て、ちょっと泣きたかった。
「次はいつ来るの?」と聞くから、「月曜日にまた会おう」と言って手を振った。
エレベーターの扉が閉まっても、まだ声が聞こえる。「またね、またね先生」。
先生じゃなくて、カメラマンなんだけどなぁ…と、ぼんやり思う。
土曜の朝、早起きして出かけるってぇのはいいねーと、高速道路から見えるきらきらとした山並みを眺めながら思う。
押し入れから適当に取り出してきたカセットテープには、GANDALF、ゆらゆら帝国THE VELVET UNDERGROUND
ドライブには全く似合わなかった。
白い息は青い空に消えていく。
山には赤とんぼバッタに蛇…香りは冬なのに、タイムラグを見ているような…なんだか変な感じ。
山頂から少し離れた所で一気に視界が開けた。小さな町が見えた。ばあちゃんと子供達が畦道を歩いて行くのが見えた。空が近かった。
神戸に戻る前に、夜の余部鉄橋を見に行った。そこに走って行く列車に、「あれはたぶん、銀河に行ける」と、そう思った。本当は「浜坂行」か「鳥取行」だという事を知っているのだけれど。
今日。子供の頃はたけのこの里が好きで、今はきのこの山が好きだな…という事を思い出した。
会場はとても寒くて、帰りの列車では止めどなく鼻が流れてきた。
マフラーの巻き方を同じにしてみたくて、少し思い出してみる。
荒れた唇が、少し痛い。
悲しい。
寒いからな。