晦日。我が家は今年最後のお客様を迎えます。
彼女は駅に降り立った時からよくにこにこと笑い、
何度もわたしにカメラを向けてはシャッターを切ってくれます。
駅から家へと向かう道すがらでは、お屋敷のどんちゃん(おそらく柴犬)を紹介し、
心臓破りの坂道で互いに写真を撮り合いました。
家で待っていてくれたシゲルさんは
「はじめまして」の女の子に少し緊張もしていましたが、
挨拶の後、その彼女の人柄にすぐ表情を緩めていきます。
写真学校時代からの友人のなおは、
これまでわたしが暮らして来た全ての家に訪れた事のある唯一の人ではないでしょうか。
シゲルさんに手伝ってもらいながらお台所で昼食準備をしていると、
なおは優しいおばあちゃんのような表情で(おおよそ八十歳くらい)
ずっとわたし達ふたりを眺めていてくれました。
その時の表情がもうなんとも忘れがたく、
わたしは彼女がこれまでに重ねてきた経験や幸せをそっと思います。
変わらず大したものは作れませんが、なおは食事をゆっくりとよく噛んで味わってくれ、
「美味しい」「美味しい」と微笑んでくれていました。
わたしが昼食の後片付けにとりかかると、
シゲルさんは趣味のうなぎ話とうなぎ写真をなおに話したり見せたり…
優しいなおはシゲルさんのその話に丁寧に耳を傾けてくれていました。
それはなんだか微笑ましくて…少し不思議な心持ちになっていきます。
ふたつの円が交わって…
その円がどんどんとひとつにとけ合っていくとでも言えばいいのか…
考えてみると、それはこれまでになかなかない体験でした。
昼食の後片付けが終わると、なおがお土産に持って来てくれた
デリチュースのきな粉のロールケーキを三人で頬張ります。
これがとても美味しくて、シゲルさんとわたしは感激。
大阪駅でも買えるそうなので、わたしもまた誰かにプレゼントしたいなぁと思いました。
穏やかで楽しい時間は次第と暮れていき、あっという間になおを見送る時間となります。
今度は三人で駅まで向かい、どんちゃんもなおを見送ってくれました。
駅へ辿り着くと、次の列車までは少しの待ち時間。
わたし達はまた次に会う約束を交わし、
何度か「ありがとう」「ありがとう」と互いに言い合います。
もう待ち時間も僅かになった頃、最後に一言、
なおが大切な言葉をわたしに残してくれました。
その後すぐになおは一番ホームに入って来た列車に乗車し、
車内から控えめに手を振っては、美しい笑顔を見せてくれていました。
なおを見送った後に見た、今年最後の夕焼けはとても優しい色をしていて、
わたしは鼻をすすりながらシゲルさんに頭をなでられます。
とても短かった大切な言葉には計り知れない程の感動があり、
彼女は素晴らしい2008年最後の日を、わたしに運んできてくれたと思えたのです。