ヴァージニアのお誕生日。
ヴァージニアはジゲルさんがニューヨークのキャンプヒルで働いていた時にお世話になっていた家のハウス・マザーなのだ。
日本時間の夜九時半に、シゲルさんがヴァージニアに電話をかける。
携帯電話の向こう側からまず聞こえてきたのはリード(ヴァージニアの夫)の声で、驚きと嬉しさが溢れ出した様子がシゲルさんの横でじっと耳をすませているわたしにも伝わってきた。
ヴァージニアとシゲルさんは短い時間の国際電話であっても多くの言葉を交わし、わたしは二人の会話から一つの素敵な英単語を覚える。
電話の最後の方で「今、日本は何時なの?」と訪ねたヴァージニアに、シゲルさんが「夜の九時半だよ」と答えると、「じゃあもうおねむでしょう」と言っていたのがなんとも微笑ましくって(キャンプヒルでは日の出とともに一日が始まり、夜の九時にはみんなそれぞれの部屋で眠りにつくのだ)。
ヴァージニアもリードもヤングピープル(一緒に生活をしている障害者の人達)も、みんな「ミナコは元気なの?」と訊いてくれる。
わたしはシゲルさんの横でじたばたと喜びながら、二年前の奇跡にそっと感謝をした。
「かけがえのない」という言葉は昔から好きだったが、その重みを歳が増えていく毎に実感出来ていく事が嬉しく、またそう感じさせてくれるシゲルさんがもうたまらなくいとおしくって。