はじめてシゲルさんを連れて、父の墓参りへ行って来た。
まだ暑さの残る、見事な秋晴れの日。
シゲルさんは額に汗をかきながら、丁寧に父の墓石を磨く。
ああ、お父さん…
わたしの旦那さんはちょっと鈍感で、気がつくと居眠りばかりしているし、焼きたての食パンを底からほじくって食べたりするし、物事をすぐに忘れるし、「一緒にIKEA行きたい!」とか言っても四年はかかるし、USJには連れて行ってくれないし、朝ごはんを食べるとすぐに「お昼ごはんは?」とか言うし、一緒に映画を観に行ってもすぐ寝るし、器用でなんでもこなすのに全く世渡り上手じゃないし…
だけど。どこまでもどこまでも真面目で、ひた向きで、辛抱強くて、とめどなくわたしを愛してくれる、心と行動の優しい人です。
お父さん…
呼んでももうどこにもいないのに、でも、何度でもとなえてしまう。
その胸の音が止まる瞬間に、わたしだけがお父さんとは呼べなくて、ずっとそのことが引っかかっていて、時間が経っても、何も思い出にはならない。
お父さん。
わたしは元気に二十歳を迎えて、何人かの男の子と恋をして、がむしゃらに写真と向き合い、シゲルさんと出会って、五年の交際を経て、三十を過ぎて結婚をしました。
お父さんは、大人になったわたしを何も知らない。
そのことがただあきらめられなくて、何度でも墓参りへ行き、となえてしまう。
お父さん…
わたしは弱い人間だけれど、シゲルさんと懸命に運命を切り開いていきます。
使い終えた道具を洗い、わたしが水洗場から戻ると、シゲルさんは母とのんびり会話をしていた。
軽やかな秋風が、ほてったわたし達の身体を通り過ぎていく。