関西国際空港へと向かうシャトルバスの中、シゲルさんが窓の外を指差して「あっちが神戸だよ」と言ったので、なんだかふいに涙が流れてきた(神戸には実家がある)。
スキポール空港に到着したのは、昨晩。
ヘルシンキでのトランジットで切羽詰まる思いをし、くたびれ果てていたわたし達は、空港を出てすぐに宿までのシャトルバスに飛び乗る。
ハイウェイを走るバスの車窓から眺めた、はじめてのオランダ。
まだ気持ちがふわふわとしていて、この目は何かを見ているようで、何も捉えることが出来ていなかった。

翌朝、9時過ぎ。宿をチェックアウトして、今日からオランダ在住のアーティスト満江英典さん(シゲルさんの美術学校時代の先生)のお宅にお世話になる。
わたし達が六年間ずっとずっとあたため続けてきた、オランダの満江先生に会いにいくという夢。
昨日抱えていた疲れも取れて、新しい朝をすっきりとした気分で迎える。



空港ターミナルの地下1階にオランダ鉄道のスキポール駅があって、そこからオランダ各地だけではなく、ドイツやフランス方面への列車も出ている。
1階にある窓口で列車のチケットを購入して、満江先生が暮らしている街まで。





車窓から。駅のホームに、こんなにも立派な花屋さんが。



満江先生のお宅に到着したのは、ちょうどお昼前。
お話しには伺っていたのだけれど、その美しく立派な佇まいに、思わずうっとりとしたため息が出た。
先生一家が暮らしているこのお家は、なんと1640年に建てられたものだそう。



先生の奥さまが作って下さった、ことことと煮込まれたポタージュスープ。
切り分けていただいたパンと味わう、この幸せ。



食後。さっそく、先生が暮らしている街を歩いてみることに。
朝方はまだ薄曇っていて、肌寒さを感じていたのに、お昼過ぎには見事な晴天。



この日は、他にもお客さまがいらしていて、少しだけ一緒に散歩を楽しむことが出来ました。




この猫ちゃんとは、何度も遭遇。






先生達がお家へと戻った後、わたし達は更に街を散策してみることに。
そんな中。驚くのは、とにかく建物が傾いていること。
前方に大きく傾いているものもあれば、左右のどちらかに傾いているものもある。






はじめての街を、好奇心だけで歩いて行く。本当ならば、少し不安になったりもするのかもしれない。だけど。この街には知っている人がいるんだという、強い安心感。
シゲルさんとわたしは、まるで小さな兄妹にでもなったような気分だった。
西日が強くなり、どんどんと長くなっていく影に、子供の頃の「おうちへ帰ろう」という感覚を思い出す。
そして。オランダへやって来て、「おかえり」と迎えてもらえる、この不思議であたたかな瞬間。



お台所では先生の奥さまが晩ごはんの支度に取りかかってくれている。
小さな娘さんが眠りについてから、四人で囲む晩ごはん。
この日いただいたのは、葉野菜と豆の入ったビーツのサラダに、オランダの伝統料理スタンポットというお料理。



こちらが、そのスタンポット(Stamppot)。
茹でたじゃがいもと刻んだケールをマッシュして、大きなソーセージと一緒にいただく。お好みで、マスタードやチリソース(?)を添えて。
クリーミーなじゃがいもと食べ応えのあるソーセージとの相性が抜群で、シゲルさんとほっぺたいっぱいに頬張りながら、こうしておもてなしして下さることにしみじみと感謝をした。



食後にいただいた、フラー(Vla)というデザート。
カスタードクリームにヨーグルトを混ぜて作られた(…だったかな)、オランダの国民的デザートだそうです。
こうした暮らしの中にこそ、強い旅情を感じることが出来る。
こんな旅が出来るのは、満江先生と奥さまのおかげだ。
何度でも不思議な気分になる、そんな甘い夜。