今朝もみんなで散歩へ出かけ、湖畔での時間を過ごした。
明日。この街を離れて、アイスランドへと向かう。
気分は、ずっと落ち着かない。
心地のよいこの場所を離れたくないという気持ちと、ずっと恋い焦がれてきたアイスランドをやっと訪れることの出来る高揚感。その両方の想いが、朝から行ったり来たりしていたのだった。
けれど。午後になればなるほど、この街ののびのびと澄んだ空気が恋しくなって、寂しい気持ちになった。
またやたらに街を歩いて、カフェに入り、口に合わなかったケーキをフォークの先で突いたりしながら(けれど、最後まできちんと食べる)、ぼんやりと外を行く街の人達を眺めた。
満江先生のお家へ戻りたいのに、戻ったら荷造りを始めなくてはいけないことが、無性に悲しかった。
街が夕暮れになり、お家へ戻ると、満江先生と奥さまが御馳走を用意して下さっていた。
カレーライス、豚カツ、根セロリのカツ、ブロッコリー胡麻和え…
何か大事なことがある前の日などには、よく豚カツを選んで食べているわたし達は、食卓を前にして思わず顔が綻んだ。
満江先生のお家でいただいたごはんは、どれもどれも本当に美味しかった。
家庭の味に触れ、オランダの名物を振る舞っていただき、シゲルさんはご機嫌な酒飲みとなった。
わたしは自分で写真に撮ったものを忘れることは殆どないけれど、「美味しい」「嬉しい」と頬張った料理の味もいつまでも覚えていることが多い。
こうして食べ物の感謝は、ゆっくりと長い時間をかけて、恋しい記憶へと変わっていく。
23時過ぎになると、Hanaちゃんの散歩へ出かけた。
シゲルさんは毎晩、満江先生と三人(二人と一匹)で出かけていた、この夜の散歩。今夜は居ても立っても居られなくなって、わたしもついて行くことにした。
満江先生は、まだわたし達が通っていない道を選んで歩いて下さる。
ふと立ち止まり、上を見上げたかと思うと、教会の鐘が鳴った。
わたし達は、この未練を大事に大事にして、明日アイスランドへと向かう。