今日は長いです…

昨夜、天気予報で確認しておいた…
今日は快晴!!!!!
居ても立っても居られずに、五時前に起きて、チェックアウトの準備と身支度を済ませ、朝ごはんを用意した後、お昼ごはん用にハムとオムレツのサンドイッチを作る(この写真で三脚を使った…)。



二日間お世話になった、セールフォスのゲストハウス。
早朝のチェックアウトだったけれど、レセプションは既に開いていて、とてもスムーズな手続き。
笑顔の素敵なオーナーさんが「今日はどこへ行くの?」と訊いてくれたので、わたし達は揃って答えた。
「氷河を目指します」
アイスランドへ行くと決めてから、ずっと見たかったものがある。それが、氷河だ。
見たことのない氷の世界…
それは自分の作品にはならないようなものだけれど、けど、必ず見たいと思ってきたもの。
今日はその念願の氷河、アイスランド最大のヴァトナヨークトル(バトナヨークトル、Vatnajökull)へと車を走らせる。
ヴァトナヨークトルはアイスランドの国土8%を占める氷河で、ヨーロッパでも最大級の氷河の一つ。
時間が許す限り、そのヴァトナヨークトルへ向けて東に車を走らせ、またその道を戻って、今夜はヴィーク(Vík)というアイスランド本島の最南端にある小村に宿泊する。
往復700キロ以上のドライブだ(シゲルさん、ありがとう!)。



予報通りの、たっぷりとした青空。
セールフォスは一号線沿いにある街なのだけれど、お天気の良さに誘われて更に南下し、海沿いの道を走りながら308号線を使って再び一号線へと出ることにした。
テンションが上がって仕方のないわたしは、窓を全開にして冷たい風を浴びながら歌う。
「恋が走り出したらー 君が止まらないーーーっ♪」
そして、叫んだ。
「おおーい!馬達よー、遂に晴れたぞーっ」
シゲルさんは今日の長距離運転のために体力を温存しているのか、冷ややかに言う。
「ミナちゃん、寒い。窓、閉めて」



!!?



!!!



牧草地に佇んでいたわんこを見つけ、車を止めてもらう。
シゲルさんに「凶暴だったらどうするの…」と言われたけれど、わたしは「あの顔は、大丈夫」と変な自信を持って車から降りた(犬、大好き!!!)。
案の定、わんこはてってこと歩み寄って来て、わたしの前でごろりと腹を見せる。この野生心のなさは、はて。。。
日本語でめちゃくちゃに話しかけ、ひとしきり撫でまくり、立ち去ろうとすると、わんこは「えっ、嘘でしょ?!」みたいな顔をして見上げた。…せ、切ない。
首輪も何もしていなかったけれど、周辺の牧場で飼われている牧羊犬なのだろうか…(はたまたアイスランドのたぬきか…)。
(写真:シゲルさん)



アイスランドはひつじ大国だとも聞いていたけれど、アークレイリへと向かう北部の道では一度もひつじを見かけることはなかった。
2012年の9月に北アイスランドを襲ったブリザードで、一万頭ものひつじ達が行方不明になったことと何か関係しているのかな…。
南に下って来て、やっと出会えたひつじ達に心が弾む。
「おはようございまーす!」と放った声に、ひつじ達がいっせいにこちらを向いた。
ラブ、ひつじ♡



308号線沿いにあった、比較的小さな滝(Urriðafoss)。
滝を眺めてまた走り出すと、一号線はもう目と鼻の先だった。
思いがけず動物達と触れ合うことの出来た、ゆかいな朝のドライブ。
一号線へと出ると、なだらかな牧草地がただひたすらに続いて行く。



途中、小さな町(Hvolsvöllur)の郵便局で日本への手紙を出し、N1でコーヒーブレイク。
一号線沿いからヘイマエイ島(Heimaey)を望む(写真がヘイマエイ島かどうかは謎…)。
総人口が32万人ほどしかいないアイスランドで、それほど大きくはないヘイマエイ島には4000人以上の人々が暮らしているのだそう。
南部で一番大きな街でもあるセールフォスの人口は6500人くらいだから、それはとても不思議なことのように思えた。
(先日、放送されていた「椎名誠のでっかい旅!ファイナル地球最大の火山島アイスランドの謎に迫る」で、ヘイマエイ島を見た人もいるのではないでしょうか)



セリャラントスフォス(Seljalandsfoss)。
この滝は滝壺の裏側がくり抜かれたようになっていて、その中から水流を眺めることも出来るのだそう。
それは世界的にも珍しいそうなのだけれど、わたし達はスルーして氷河を目指すことに。
次々と駐車場へと入ってくる観光バスは、滝を堪能して、更に北上して行くのが見えた。
このセリャラントスフォスの奥にも何か別の滝があって、そちらの方に向かうのかしら。
(写真が多くて、ただの説明みたいになってきます…)



更に東へ進んで行くと、山(丘?)の連なりが近くなって、道沿いには火山から降ってきた(であろう)岩がごろごろとしていた。
2010年、エイヤフィヤトラヨークトルが覆う火山が、大規模な噴火を起こす(氷河が噴火するって、なんだかよく理解出来なくなるのだけれど…)。
この噴火は様々な航空会社に大きな交通麻痺をもたらしたので、記憶に残っている人もいるのではないだろうか。
このソルヴァルスエイリ農場(Þorvaldseyri)の後ろに見えているが、そのエイヤフィヤトラヨークトルなのだけれど、農場の入口には、建物のすぐ後ろで上がるおぞましい噴煙柱の写真とともに、その時の噴火の様子を記した看板が立っている。
わたしは火山のある地域に暮らしたことはないけれど、かつての三宅島火山や雲仙火山などの悲痛な噴火の記憶が過り、やっぱりアイスランドと日本は地形が似ているように感じていた。
この国の圧倒的な自然から感じる悲しみは、そういったところからもきているのかもしれない。
(シゲルさんの、この寒そうな顔…)





この日、はじめての峠。
セールフォスの街を出てからずっと平坦な道ばかりが続いていたので、ふたりの間に少し緊張が走った。「また雪に覆われた怖い道だったらどうしよう…」と。
けれど、峠はどこまで行っても青空に包まれたままで、積雪の心配もなく、わたし達は胸をなでおろす。
雪のない峠に気持ちがほぐされて、わたし達はこの高台に車を停めてのびのびと何枚もの写真を撮った。



峠を下ると、ヴィークの町が見えた。
ヴィークはアイスランド本島の最南端にある、人口300人にも満たない小さな町。
シゲルさんが町外れにあるN1で煙草休憩をとっている間、わたしは少し周辺をぶらぶらとする。
海からの強い風を受けながら丘の上にある教会を見上げていると、突然けたたましいクラクションの音。
ビックリしてN1の駐車場の方を見ると、大胆な駐車をしていた車にイライラとしているトラクターの運転手がいた。
おとぎの国から、なんだか急に現実に戻されてしまったような感じがして、そわそわとしてしまう。もちろんアイスランドにだって、イライラしている人もいれば、せっかちな人もいるんだけれど、この風景がそれを少し忘れさせていた。
いそいそとシゲルさんのところまで戻り、離れてしまわないようにぺったりとはり付く。




ヴィークを出ると、次の街までは200kmも離れているのだそう(途中、集落はある)。
昔、北海道を車で旅したことがあったけれど、さすがにそこまでの距離感を感じるのは初めてのこと。
そして、アイスランド南部の道を走っていて印象的なのは、氷河から流れてくる水が川となって、無数の川筋をつくり海へと流れ出していることだった。
川の所々が凍りつき、そこに雪が積もって、地面に雲が浮かんでいるような風景を見せる。
けれど、これらは夏になると水量も増えて、悪天候の多いアイスランドでは水害の被害も多いのだという。
南に来てから幾つも渡っている橋は、実際に水害で流されてしまったため仮設の物もあって、あちらこちらで工事をしているのを見かけた。




ヴィークの手前で峠を越えてからは、また平坦な道が続いて行く。
セールフォスの街を出てからは、もう6時間程が経っていた。
先を急いではいるけれど、もう随分と前からお腹はペコっ腹で、川沿いにベンチを見つけたことだし、ここで作ってきたサンドイッチを食べることにする。
食事の前に川の水で手を洗い、すぐに指先に冷たい痛みを感じた。けれど、水はとても澄んでいて、これも氷河から流れ出た水なのだな…と思ったら、どこかどきどきと気持ちがよかった。
呼吸をしているように絶え間なく吹き荒れる風、その音と川の音とが重なって不思議な音を奏でる。
(のどかなピクニックのようだけれど、もちろん外はとても寒い。。。)



後方に白く広がっている氷河ミールダルスヨークトル(Mýrdalsjökull)は、アイスランドで最も危険とされるカトラ火山を覆っている。
氷帽と雲とが混じり合って、境界線をなくす風景。
それは少し怖いような…けれど美しくて魅入ってしまうような…そんな力強さがあった。
山なのに氷河で…火山なのに氷河に覆われている…
そんなことを何度も繰り返し考えながら、早く氷河に近付きたいと心がうずうずしていた。



この無数に散らばった石は、カトラ火山が噴火した時に降ってきた溶岩石の集まり。
火山から降ってきた石が、このように積み重ねられた訳を詳しくは知らないけれど、圧倒的な自然の中に人々の祈りを見たみたいで、どこか不思議な気持ちになった。
そして。火山灰の灰色って、なんとも言えない色をしている。






前方にヴァトナヨークトルが見えてきた!
けれど、それはどこまで行っても遠くのままで、一向に近くはなってくれない。
車は制限速度の90キロで走っているはずなのに、道の平坦さがそれをどこまでも遅く感じさせた。
アイスランドでは日中であっても車のヘッドライトを点けることが義務付けられているのだけれど、今日ほどその重要さを感じたことはなかったように思う。
前方との距離感が、ヘッドライトの光によって確認することが出来るからだ。
そう。アイスランドへやって来てから、わたし達はうまく距離感を感じることが難しくなっていた。



途中、休憩したN1で見つけた、全国のN1マップ!
この地図を眺めていると、何故か心がほっとします。
(深夜に見るコンビニの灯りのような…)








やっとやっとやーっと、氷河の裾野が見えた!
(ほ、本当に長かった…)



そして。辿り着いたのは、ヴァトナヨークトルの一角スヴィナフェットルス氷河(svinafellsjokull)。
駐車場から出ると、そこは「サンシャイーン!」と乾杯したくなるような風景が広がっていた。
駐車場から少し歩くだけで充分に氷河を望むことが出来るのだけれど、更にその奥地へと続いている道(?)がある。けれど、そこには柵のようなものがあって、「ここから先は立ち入り禁止なのかな…」と一瞬思いとどまった。
暫くもじもじしていると、後からやって来る人達はどんどんとその柵を乗り越えて行くので、これは自己責任ということなのかな…と理解する。



少しそわそわとしながら柵を越えると、そこはただの足場の悪い崖が続いている。
運動神経がそこそこのシゲルさんは身軽に先を進んで行くのだけれど、相変わらずのわたしは鈍臭く岩場を這うようにして登る。
眼下には一面の氷河が広がっていて、本来ならば感動的な風景のはずなのに、足場の悪さと高所の恐怖感が強くて、なんだか落ち着いて風景を楽しむことが出来ない…。「シ、シゲルさん、こ、こ、怖い…」。
それでも。突き抜けるような青空の下、見上げたシゲルさんはやたらにかっこよく思えて、わたしももう少しだけ頑張ろうと思った。
けど、それはゲレンデの恋とか…たぶんそういう類いのやつだってことも知っている。
(この写真、なんだか合成みたいだな…)



青白い氷河の上には、所々に残る火山灰。
はじめて目にした風景の広がりに、どんどんと胸が高揚してくるのがわかった。
こ、怖い。
でも、もっと先まで行きたい。



(シゲルさんのかっこよさ二割増か…)



これからヴィークの宿まで帰る道程を考えると、もうゆっくりとしている時間はなかった(寄り道しすぎたせい…)。
けれど、わたし達はもっと氷河に近付きたくて、もう少しだけ東に車を走らせることにする。



そして、辿り着いた。
「放心」という言葉があるけれど、たぶん暫くはそういう状態になっていたのだと思う。
これまでにも様々な場所を旅して(そんなに多くの旅をしたわけではないけれど…)、数多くのハッとする風景に出会ってきたと思うし、旅をしていなくともなんでもない日常の中に美しい場面は幾らでもあるように思う。
けれど、何かが違っていた。
自分の人生において、こんなところにまで辿り着いてしまったんだ…という、何か途方もなく大きなものを抱いてしまったような心持ち。
このよくわからない気持ちを、すぐ横にいるシゲルさんに伝えたいのだけれど一向に言葉が出てこなくて、黙ったまま氷河での時間を過ごしていた。



わたしの目の前にいるのはシゲルさんだけなのに、この風景を見ていたら、無性に大切な人達のことが頭を巡った。
お父さん、マッチー、ありがとう。
シゲルさんのお父さんとお母さんも、ありがとう。
兄姉も、友人も、先生も、「いってらっしゃい」と言ってくれた全ての人達…
どうもどうもありがとう。
そして。わたしにとっての神様って、よくはわからないのだけれど、けど、神様どうもありがとう。
わたしは大好きな人と、こんなところまでやって来ました。



わたし達が氷河を後にする時、駐車場(のような所…)に一台の車がやって来た。
その車から、若い女性がたったひとりで降りてくる。
彼女はトランクからカメラバッグのリュックサックと三脚を取り出していて、わたしがその様子を眺めていたことに気がつくと、とても優しい笑顔で微笑んで氷河の方へと進んで行った。
氷河を背にして、車を走らせながらシゲルさんは言う。
「自然の中にひとりでいることは怖いことだと思うけれど、それでも彼女はきっととてもいい時間を過ごすだろうね」
振り返ると、氷帽から虹が伸びている。
この時、わたしはやっと自分の中にある、どっとした感動を受け入れられたような気がしていた。



チェックインの時間を過ぎてしまい、どことなく気まずい雰囲気で今夜の宿に到着。
今回のアイスランドでは大幅な予定の変更もあって、幾つかの宿をキャンセルすることになったけれど、この宿はスケジュールの帳尻を合わせてキャンセルをしなかった所。
何故なら、わたし達なりに少しだけ奮発をして、一泊くらいはいい所に泊まろうと決めた宿だったからだ。
けれど。実際に来てみると、オーナーさんの強いこだわりがどこか窮屈で、なんだか身体がかしこまってしまい、わたしは全くくつろぐことが出来ずに「身の丈」という言葉を感じてしまうこととなった。
わたしはこんなにも素敵でなくとも、素朴で清潔な宿であれば、それで充分なんだ…。



どことなく部屋でも小声で過ごしながら、順にいそいそとシャワーを浴びた。
わたしがバスルームから戻ってくると、シゲルさんはタブレットを手にしながらオーロラ予報を見ている。
アークレイリで過ごしていた時には吹雪が続き、オーロラに近い場所であっても、オーロラとは遠いところにいた。
今日はいいお天気だったけれど、残念ながら明日は雨の予報で、実際にヴィークへと戻る最中で雨に降られた。そんなコンディションの悪い中、オーロラなんて見られないだろうと、わたしはあきらめていたのではっとする。
旅へ出る前にはシゲルさんよりも強く「オーロラ見るぜぇい」と張り切っていたはずなのに、想像を超えるアイスランドの風景を前にしていたら、もうそれはどこかへ遠退いてしまったようだった。
それなのに「オーロラって、ただもやもやしてるだけでしょ」とか言っていたシゲルさんは、「ちょっとだけ外へ出てみようよー」なんて言っている。
わたしはお風呂から出るともう何もしたくない派なので、「えーっ、また厚着するの嫌やー」とぶーたれたけれど、シゲルさんがあんまりにもキラキラした顔で言うので、負けてしまった。



わたしはぶーぶー言いながら、シゲルさんの後に続いて渋々と宿の外へ出る。
その時だった。
東の空に、大きく揺らめく緑色のものを見た。
シゲルさんとわたしは顔を見合わせて、声にならないような声を出す(オーナーさんに「夜は音を立てないで下さい」と言われた)。こんな偶然って、あるものなのかな?!
わたしは慌てて三脚を組み立て、ファインダーを覗く暇もなくシャッターを開いた。そして、暫くした後、シャッターは重たい音を立てて閉じる。
その時。オーロラは、もう見えなくなっていた。
ほんのひと時の、魔法のような時間。
写真には写っていないだろうな…そんなふうに感じていた。けれど、写っていなくてもいいとも。
シゲルさんとわたしはオーロラの見えなくなった空を見上げながら、暫くぼーっと立ち尽くす。
オーロラって、いったいなんなんだろう…
どうして、こんなにも静かに胸が高鳴るものなんだろう。
そんな魔法が幻ではなくて、本当だったんだってこと、帰国して現像に出した写真が教えてくれた。
それはぼやっとした冴えない写真だったけれど、けど、確かにわたし達が見上げていたオーロラ。
思えば…日本に帰って来てから、やっと今回の旅の素晴らしさが身に沁みてきたように思う。
旅は、いつだってそんなものなのかもしれない。