8時まで眠って、ゆったりと朝ごはんを食べる。
共同のキッチンスペースで食事の準備をしていると、宿泊客のフランス人ふう(?)おばさまに着ていたワンピースを褒められ、少し上機嫌。
10時前に出発。まずはハットルグリムス教会の展望台へ上って、レイキャヴィーク市内の街並を眺めようと考えていたのだけれど、教会ではお葬式が行なわれているところだった。
教会について詳しくはないからわからないのだけれど、ここで葬儀が出来るというのは立派な人だったんだろうか…それとも市民であればここでお葬式を挙げることが出来るものなのかな。
そっと目を瞑り、その場を離れる。
それから宿の前に停めていた車に乗り込み、レイキャヴィークから15kmほど離れたアゥラフォス(Álafoss)という小村へ向かった。
アゥラフォスにはシガー・ロスが所有していたレコーディング・スタジオとアイスランドの伝統的なロピー・セーターのニッティング工場がある。
昨日、ヨンシーに会ってポートフォリオを渡すことが出来たのだけれど、スタジオの周辺はずっと訪れてみたい場所だった。
アイスランドへ来てから幾度となく出会うラウンドアバウト(日本でも話題の!)にもすっかりと慣れ、シゲルさんはスイスイとハイウェイを進んで行く。



レイキャヴィークを出発して、アゥラフォスには20分程で到着。
村のメインストリートであろう小さな通りには、幾つかのクラフトショップが軒を連ねている。
その周辺の広大な土地には、どんどんと建設されていく新しいマンション。
シガー・ロスのスタジオとニッティング工場は、村に入ってすぐの所に向かい合わせにして建っていた。
アイスランドへ来る前には、ふたり揃って「向こうでロピー・セーター買おうぜぇい」と意気込んでいたのだけれど、こちらに来てからは物価の高さにおののき、アークレイリやレイキャヴィークダウンタウンにあるショップなどでロピー・セーターを見かけても尻込みをしてしまっていた。
けれど、アゥラフォスのニッティング工場では、そのロピー・セーターがダウンタウンで購入するよりも20〜30%は安いとのこと。
わたし達は工場内にある広いショップでロピー・セーターを吟味し(物凄い品揃え!)、それぞれにお気に入りの一枚を探し出す。そして、店員さんに話を訊きながらフィッティングをしたりして、互いに「いいねぇ」「いいねー」と褒め合いながら、「ミナちゃん、買いなよ」「いや、シゲルさんの方が似合うから、シゲルさん買いなよ」と言い合った。
結局、20〜30%安くはなっているものの、ふたりでそれぞれに一枚ずつ買う勇気は出ず。。。ここまで来たというのに…。泣
互いに譲り合ったまま、わたし達は家族へのお土産に“VARMA”というブランドのウールソックスを購入しただけで店を出てしまった。
恐るべし北欧の物価の高さ&旅先でも散財出来ぬわたし達の懐事情。。。
(それでも、このニッティング工場はほんまにお勧めやと思います!)



クラフトの村ということもあるのか、アゥラフォスでは所々でヘンテコなものを発見。
写真にはないけれど、日本語で「希望の木」(…やったかな)と書かれた記念樹(?)のようなものも。



アイスランドへ来てから、とにかくわたし達のお腹は満たされていなかった。
毎日自炊をして、それなりに食べてはいたのだけれど、物価の高さ&節約旅行のために色々な食材を買うことは出来なかったし、宿では思うように料理も出来ない。
ガソリンスタンドにあるカフェで比較的安価なホットドッグやハンバーガーを頬張ってはいたけれど、まだ一度もレストランで食事をしたこともなかった。
オランダでは満江先生や奥さまに沢山の美味しいものを作っていただいたので、アイスランドでこれといったものが食べられていない、そのギャップは大きい。
アイスランドでの観光も、明日が最後。
せっかくなので、アゥラフォスで初めてきちんとした外食をしてみることに(と言っても、気軽に入ることの出来るカフェ)。



店内へ入ると、ふわりと感じた美味しい香り。
まだオープンしたばかりだったので、来客はわたし達以外には誰もいないみたいだ。
にこやかな店員さんがテーブルまで案内してくれ、メニューを差し出してくれる。
久しぶりの外食にどこか姿勢を正しながら、心弾む想いでアイスランドの伝統的な料理が並んだメニューに見入っていると、店内に続々と周辺の建設現場で働くガテン系(?)な男達が入って来た。
壁面にはアーティストの作品が飾られている小洒落た店内は、一気に筋肉隆々な男達で埋め尽くされる。。。その中に、観光客はわたし達ふたりだけ。なんだろう、この雰囲気は…。
男達は慣れた様子で、注文もせずに店内の端に並んでいたランチバイキングを皿に盛って、思い思いのテーブルに着き食事を始めた。
その一連の流れを見ていたら、「アイスランドといえば、やっぱりラム肉かシーフードよね」とか言っていた我々も(そんなふうに言うのはわたしだけれど)、ランチバイキングが食べたくなってしまう。その中には、アイスランド料理など一つもなかったのだけれど。。。



店員さんにそのことを伝えて、わたし達も男達が並ぶ列へと続く。
料理の並んだバイキングのテーブルには、ミートボール、タイ風カレー、蒸かしたじゃがいも、玉ねぎのバターソテー、生野菜、そして、デザートにライスプディング
わたしはアイスランドに来てから殆ど食べることの出来ていない野菜をもりもりと頬張り、そのあまりの潤いに思わず涙が滲む。その横では、シゲルさんが腹をはち切らさんばかりにおかわりを続けていた。。。
逞しい男達に囲まれ、それはなんだか『天空の城ラピュタ』の飛行船での食堂のシーンのよう。
このランチバイキングが一人1600円くらいだったから、今思えばもっと色々なお店を調べたりして、少しは外食を楽しんでもよかったのかもしれない(今更…)。
すっかりお腹も心も満たされて、元気も腹もバッチリと出てきたようだった。



見事に重たくなった腹を抱え、シガー・ロスのスタジオの前に佇む。
以前、シガー・ロスのメンバーであるオッリもこのスタジオの横に住んでいたそうだけれど、実際に建物には生活感が滲み出ていて、なんだか見ていることも申し訳ない気持ちに。。。
それでも、ここでシガー・ロスの曲が色々とうまれたんやなぁ…と思ったら、心にどっと静かな興奮が溢れ出した(スタジオの中を見られるわけではないのに)。
シゲルさんに「あんまりぐいぐい覗いたらあかんよ」と言われながら、抜き足差し足で周辺を一周。怪しい者ですが、そこまで怪しい者ではありません。
…こうしたファンは世界中からやって来るんやろうなぁ…。なんだか、すみません。。。




シゲルさんに「もういいやろ」と言われながらアゥラフォスを後にして、レイキャヴィークの端っこにあるグロッタ灯台(Grótta Lighthouse)へと向かった。
わたしの趣味の一つに「日本の灯台50選を巡る」というものがあって、この旅へ出る前にもアイスランド灯台について調べ、幾つか見て廻る予定を立てていた。
けれど、実際に来てみると、冬場に一号線から外れて海沿いの道を行くことは困難だということを知る。
それでも南西部に下って来てからは、趣味の灯台巡りも再開し、グロッタ灯台もその中の一つだった。
ただ。街外れの灯台には、期待感は薄い。内海よりも、荒々しい外洋に面した灯台に興味があるからだった。



辿り着いたグロッタ灯台は、思った以上に見事なフォルムをしていて、思わず興奮に尻が震える。
この灯台は小島の上に建っていて、引き潮になった時だけ上陸することが出来るようだった。
わたし達が到着したのは、ちょうど引き潮の時間帯。嬉しくなって、ぐいぐいと灯台までの中州を進んで行く。
そんなご機嫌な道中で、はたと振り返ったシゲルさんが「ミナちゃん、あかん。満ちてきてる…」と言ったので、遅れて振り返ったわたしも続いて青ざめた。
その潮が満ちていくスピードの早さと、シゲルさんの岩場を駆ける軽快さといったら。。。
慌てて岩場に移動して、そのまま岩伝いに岸まで戻った。もし、帰れなくなっていたら…。ぞっ。



アイスランド語はちっともわからないけれど、どうやら夏場は自然の繁殖を守るために、グロッタ灯台へは上陸出来みたいだった。





ランチバイキングをし過ぎたせいもあって、ふたりで海沿いの遊歩道を意味もなく歩く。
露出された肌はちぎれんばかりに寒いし、風はゴーゴーと吹き荒れているというのに、遊歩道には散歩やジョギングをする人達の姿がある。
そんな中、すれ違う人達はジロジロとわたし達を見た。ここへはあまりよそ者は来ないのだろうか(わたしがずっとぶーぶー鼻を擤んでいたせいもあるとは思うけれど…)。
2キロ程歩いたところで、身体も心も充分に冷えきり、見事にシゲルさんのトイレも近くなる。
ちょっと小走りにまた2キロ歩いて駐車場まで引き返し、街へ戻ることにした。



シーフードレストランやホエールウォッチングなどの窓口が集まる、レイキャヴィークの観光スポット“オールド・ハーバー”。
この場所からも、街のシンボルであるハットルグリムス教会やハルパ(オラファー・エリアソンファサードを手がけたコンサートホール)を望むことが出来る。
倉庫が連なった通りには、庫内を改装したショップやギャラリーが建ち並び、どこかオシャレな雰囲気。
予備知識はなかったのだけれど、人気のエリアなのか、多くの観光客が行き来をしているのが見られた。



そんなオールド・ハーバーに店舗を構える、レイキャヴィークのホットな(?)アイスクリーム屋さん“Ísbúðin Valdís” 。



お店に入って店内をキョロキョロとしていると、先客のマダムが「そこで整理券を取って順番を待つのよ」と教えて下さる。
若いイケメンなお兄さんに、ふたりで1カップ2スクープのアイスクリームを注文(ソルティバニラとチョコレートだったような…)して、店の外へ出て食べる。
店内にも気持ち程度のイートインスペースがあるのだけれど、多くの人達はこうして店先でアイスクリームを頬張っていた。さっきの上品なマダムも、大人っぽい十代であろう女の子も、強面なおじさんも、みんな無心でアイスクリームを口へと運ぶ。甘い物って、人を無防備にさせるのだなぁ。
さっきあんなにも食べたというのに、シゲルさんとわたしの間ではアイスクリーム紛争が勃発。。。
お店の移り変わりが激しいといわれるレイキャヴィークだけれど、このアイスクリーム屋さんへはまた行けたらいいなぁ。



夕刻。仕上がった現像を取りに行き(お会計とネガの汚さに涙…)、宿の前に車を戻して、またレイキャヴィークダウンタウンを歩く。
レイキャビークの街を歩いていてよく見かけるのは、店舗などの壁面に描かれたストリート・アート。
いたずら描きのようなものではなくて、これらは様々なアーティストが手がけており、一つの野外作品として成り立っている。
グラフィカルなものから、具象絵画のようなものまで…ストリート・アートを写真に撮って廻る観光客の姿は本当に多い。
わたしが好きなのは、きのことフクロウの壁画。どちらも雑誌で見ただけで、実際には見つけられなかったのだけれど…。






日の入りが近付くと、いつもは観光客でにぎわいを見せているダウンタウンに、多くの地元の人々が集い始める。
どうやら金曜日の夕方は(金曜日だけかはわからないけれど)、様々な飲食店で“ハッピー・アワー”の制度が設けられているらしかった。
通りから窓越しに店内の様子を伺ってみると、夕方からビールを囲んでご機嫌なシティの人達の姿。どの人達もオシャレをしているように見えて、その姿は男性も女性もかっこいい。
やっぱりレイキャビークは小さな街だからなのか、別々のグループで集っていても、すぐに他のグループに知人を見つけてにぎわう…といったような場面も何度か見かけた。
歩き疲れた後、そんな楽しそうな制度を少し羨ましくも思いながら、わたし達はブックストアのカフェへと滑り込む(わたしはお酒が全く飲めない。ごめんね、シゲルさん…)。そして、また甘いもの…。
「明日で最後なんて、嫌やっ!」「まだ何にも見れてない!」などと、シゲルさんに泣き言をこぼしながら、ふんふんとケーキを平らげる。
にぎやかな人波を縫って、レイキャビークの街には夜が来た。