Wednesday 16 April.











6時頃だっただろうか、アパートの階段を大きな荷物が下りて行く音がする。きっと、英理ちゃんだ。ベッドの中から「またね、英理ちゃん」と、声に出して言う。この日の朝はゆっくりと起きて、昨日のレストランから持ち帰ったごはんで朝昼兼用の食事をとった。即席の味噌汁も容れる。即席の味噌汁は、昨日の晩に「もう帰るから、あげるね」と英理ちゃんから貰ったものだ。ほうれん草、油揚げ、長ねぎ…他の具材は揃っているのに、しじみだけがなくなっているのが印象的だった。やっぱり、東京の人はしじみが好きなのだろうか。お昼を過ぎて、スパニッシュ・ハーレムに住む福ちゃんがアパートまで遊びに来てくれる。彼と英理ちゃんも初対面だったけれど、彼と福ちゃんももちろん初対面。わたしは日本から持って来た大和屋の“越乃雪”という落雁とある一冊の本を、お土産にと福ちゃんに渡した。福ちゃんからはSABONというブランドのオーガニックコスメをプレゼントに貰う。そう、福ちゃんから。福ちゃんから、コスメ。今日は一日わたしの買い物に付き合ってくれるというので、行きたい所へ連れて行ってもらう事にした。アパートを出発して、地下鉄には乗らずに歩いて行く。福ちゃんの歩く速度はニューヨークだととても早く感じた。大阪で会う時はいつもゴム草履を履いていて、今日はスニーカーだったからだろうか。まず初めに行ったのが、ニューヨーク最大のペーパークラフトストア“Paper Presentations”。旅行前からこのお店に来られる事を楽しみにしていて、お店のウェブサイトをチェックしては胸をときめかせていたのに、結局自分のものは何も買わなかった。みんなにいまいち使い道のなさそうなシールやカードなどを買って、お店を後にする。そう、ここでわたしは自分の駄目なところを思い出した。あり過ぎる事にすぐに参ってしまって、わたしはものを見る事をやめてしまう。“Paper Presentations”にしても食べるお店にしても、マンハッタンには全てがあり過ぎる感じがして、いまいち自分の目に焦点を合わせて物事が入ってこない。街で写真を撮る事をしないのも、そんな理由からだろうか。ん…でも、わたしはCITY派なので、都会は楽しいです。それから、ここも強く希望していたユニオンスクエアのグリーンマーケットへ向かう。「あんまり期待せん方がええで」と言われて来たけれど、フルーツや切り花やハーブ…楽しそうなお店が青空市場のように並んでいる。まず、入り口を入ってすぐ右手にハチミツとジャムのお店を見つけてしまった事に、少しショックを受けた。昨日、パン屋のえみちゃんにジャムのお土産を買ってしまったからだ。しかも、こちらの方が少量の瓶に詰められていて、一人暮らしのえみちゃんにはピッタリ。きっと、農家のおばあちゃんとかがコトコトと煮詰めて、一つひとつ丁寧に瓶詰めされたジャムに違いない…と、並んだジャムをさっと目で追って思う。じっくり見たい…でも、悔しいから見ないでおく。あちらこちらの店でアップルサイダーと書かれた文字が目に入ってくる。サイダーと言っても炭酸ではない事を、英理ちゃんから聞いて知っていたので、飲んでみる事にする。「うん、りんごジュース」と、隣で一口飲んだ彼が言っていた。きっと、彼はコミュニティでもっと美味しいアップルサイダーを飲んだのだろうなぁ…。コミュニティ内を散歩していた時に見せてもらったりんごを絞る機械は、木製で古い時代から何一つ変わっていなさそうな造りをしていた。そこで絞ったアップルサイダーには、蜂も喜んで寄ってくるらしい。ユニオンスクエアで飲むアップルサイダーはよく冷えていて、わたしは風邪をひいた時にマッチーが擂ってくれるりんごの汁を思い出した。ここにマッチーを連れて来たら、きっと喜ぶのだろうなぁ…。グリーンマーケットにはパン屋も出ていたので、迷わずに覗く。こういう時、いちいちえみちゃんに伝えたくなる。ので、写真を撮っておく。パンはどれも食べきれなさそうなサイズだったので、アメリカンクッキーを三枚買って、チョコチップクッキーを彼とわけながら公園内で食べる。残りのオートミールとピーナツバターのクッキーはアパートに持ち帰る事にした。チョコチップクッキーは暑さのせいでチョコが溶けていて、それがとても美味しい。マーケット内を一周して福ちゃんの待ってくれている場所まで戻ると、福ちゃんは日本でもアメリカでも変わらずにカバーの外した文庫本を読みながら待っている。ユニオンスクエアのすぐ目に前には、Whole Foods Market storesというスーパーマーケット。英理ちゃんがここのデリのマカロニチーズが美味しいと言っていたので、テイクアウトをする事にした。「1パウンド」と、福ちゃんが注文してくれたので、わたしは「パウンドって、どれくらいなんだっけな…」と思っていたら、結構な分量が出てきた。ニューヨークのスーパーマーケットでは、どこもデリのコーナーが充実していて、ここのスーパーマーケットではマイバック的な、マイ弁当箱にデリを詰めてテイクアウトしていく人達を見かけた。さて、お会計を済ませようとレジに並ぶ事にしたら、そのシステムがいまいち理解出来なくてどきどきとする。この日は何となく前へ進んだけれど、翌日にまたWhole Foodsに来た時、そのシステムを彼が理解して、わたしに教えてくれた。そして、感激。まず10品以上購入する人とそうでない人とのブースが別れていて、色とりどりのレーンに並んで行く。レーンの前にはテレビモニターがあって、自分の並んだ色のレーンが何番のレジに行けばいいのか、そのタイミングが来ると数字が画面に出てくる。そのタイミングが上手く振り分けられていて、とにかくどこのレジの列が早いだとかいうのがないわけだ。うーん、説明が下手です。ユニオンスクエアのあるグラマシーから、どんどんと西へと進みチェルシーマーケットを目指した。建物の雰囲気がどことなく古めかしくなってきて、レンガ造りのアパートやビルの外壁が西日を浴びていい感じ。少し道に迷ったら、ハドソンリバーのプロムナードへ出た。川の向こう側には、ニュージャージー州の街並。彼と福ちゃんが連れ立ってお手洗いへ行ったので、一人でリバーサイドで待つ事になった。そう、この日も快晴。チェルシーマーケットへ入る前、この地区一帯がかつて精肉工場であった名残りを見に行く(写真はブレブレ)。本当によく歩いたので、チェルシーマーケットに入るとRonnybrook Farm Dairyというミルクバーで、まず休憩をする事にした。普通にコーンのアイスクリームを注文したけれど、奥の席に座っていた紳士っぽいおじさんがドリンクにアイスをのせたものを食べていたので、すぐに「しまった…」と思う。彼と福ちゃんは牛乳も飲んでいたので味見させてもらったけれど、アイスを食べた後で舌が冷えていたので味がよくわからない。それからマーケット内を散策。楽しみにしていたEleni's Cookiesの店内入ってみると、やっぱり食べるものというよりも、これは一つのエンターテイメントのように思えた。マーケット内には本当に沢山の食べ物のお店が軒を連ねている。オシャレだし清潔だし、またお昼時に来てみたいなぁ…と思った。Amy's Breadというベーカリーで明日の朝食用のパンを買って、マーケットを後にする。この日のお夕飯は、福ちゃんがイーストビレッジにあるポーランド料理のお店へ連れて行ってくれる事になっていて、マーケットを出てニューヨークへ来て初めての市内バスに乗る。バスは地下鉄のカードで乗れるので、あんまりどきどきとしなくてよかった。下車する停留所が近づいて来た時、福ちゃんに「押してみ」と言われたので、「降ります」ボタンを押してみる事に。嬉し気に押してみたけれど、日本のバスのブザーとは違って押しごたえがなくて、なんだか本当に押せているのか…不完全燃焼な気分になる。連れて行ってもらった“Little Porland”というお店は、入ってすぐにそのこじんまりとした雰囲気が気に入った。店員さんも優しそうで嬉しい。恐らく初めて食べたポーランド料理は、とても素朴な味がする。わたしはラム肉が苦手だと思っていたけれど、彼と福ちゃんが注文したボルシチに使われているラム肉を味見させてもらったら、とても美味しかった。わたしはちょっとずつ色々な種類のお料理が入ったコンビネーション・プラータを注文。とろとろのロールキャベツ、ソーセージ、サワークラフト、中の具材が選べる欧東風餃子が一つのお皿に入って出てくる。付け合わせには酸っぱいパン、オニオンリングコールスロー。そう、ちょっとずつとは言ったけれどとてもボリューミーで、細身だけれどよく食べる彼もここではさすがに食べきれず、ふたりでお持ち帰りする事になりました。だけど、ここのお店で出会ったお料理は、よそのおばあちゃんが作ってくれたみたいな…自分のお家の味ではないけれど、体のどこかで知っているような…そんな家庭的な味がした。一つひとつ、そのお味を説明したいくらい。お会計は福ちゃんが済ませてくれる。この日、福ちゃんの体調は良くなかったのに、それでもわたしをもてなしてくれたその態度は、やっぱり紳士だった(…本人はこう言うと嫌がるかもしれないけれど)。お店から一番近い地下鉄の駅で福ちゃんと別れ、アパートに帰り着いたのは23時過ぎ。あぁ…出来る事なら、もうこのまま帰国まで眠らずにいられればいいのにと思ったけれど、見事に爆睡。