クラシックには詳しくないけれど、昨年末からホロヴィッツにハマっています。
特に繰り返し聴いているのは、ショパンの『Polonaise Op. 53 in A flat major』。これがもう凄過ぎて…。
「誰からも応募がなかったら、どうするの…」(改めて文字にしてみると、すごく悲しい)
そんなふうに言われながら、ホロヴィッツを聴いて、毎日少しずつトラベルブックを制作しています。
(イタリア、アメリカと続いて、三冊目となるトラベルブックです)
一月の末にはここを通じてプレゼント出来たらいいな…
こうでも書かないと、なかなか進みません。
それでは、どうぞよろしくお願いします!


4時前に起床。バタバタと身支度を済ませて、5時前に宿をチェックアウトする。
このエアポートホテルには朝食のサービスが付いていたのだけれど、食堂がオープンするのは5時からだったので、ロビーで湯気のにおいを感じながら「お腹減った…」と唇を噛み締め(昨晩、きちんと食事していない)、まだ真っ暗な中を空港へと歩いて向かった。
空港までやって来ると(徒歩5分)、セルフチェックインを済ませ、荷物を預け入れ、いそいそとセキュリティチェックに進んだ。
ケプラヴィーク国際空港は小さな空港なのでセキュリティレーンも少なく、「こんなところでフィルムのハンドチェックをお願いせなあかんのか…」と思ったら、異様にそわそわとしてくる(ハンドチェックをお願いしてくれるのはシゲルさんなんやけれども…)。
落ち着けないまま自分の番が回ってくると、上着も靴も脱いで、ベルトも腕時計も外すようにと言われた。ここまで脱いだり外したりしたのは、今回の旅では初めてのこと。
けれど。フィルムのハンドチェックは、日本を出国する時よりもあっさりと終了し、シゲルさんとわたしは拍子抜けをする。
フライトの時刻は、7時10分。
セルフチェックインとセキュリティチェックを終えても、まだ時間はたっぷりとあって、ふたりでぽかんとしてしまった。
おまけに。「日曜日の5時だし、空港の窓口は開いていないかもしれない…」と思い、昨日の内に手続きを済ませておいたタックスフリーの窓口は既に営業を始めており、係のご夫人は暇そうにふてくされているではないか。。。
「これ。朝ごはん、少しは食べられたかもしれないね…」
シゲルさんは空きっ腹にビールを流し込んで、空港内のカフェで相変わらずの舟を漕いだ。
わたしは持て余した時間を、手帳に日記を書きながら過ごす。
飛行機に乗り込む直前、開かれた東の空から太陽が昇るのが見えた。アイスランドで迎えた、最後の朝だ。
晴れている。こんなにも、晴れ渡っている。泣



空はあんなにも晴れ渡っていたのに、機体が離陸してしまうと、眼下はあっさり一面の雲で覆われる。アイスランドの大地が、するりとわたしの身体から離れた。
なんだか…ずっと片想いのような旅だった。そう感じていた。
けれど、それは違っていた(…ように思う)。
今回、アイスランドへは撮影のためにやって来た。
そんな旅の始まりは見事な猛吹雪に手厚く歓迎され、来る日も来る日も極北の悪天候を目の当たりにし、撮影は全く思うように進まなかったのだけれど、それでも手元に残った写真には確かなレスポンスが見られた。
七年間、わたしの写真は止まっていたわけではなく、ここへ向けてゆっくりと呼吸を整えていたことがわかったからだった。
その写真はまだ限られた人達にしか見せられていないし、いつそれがひとつの形となって発表出来るかもわからない。
それでも。わたしはアイスランドの写真を撮り続ける。そういう強い想いが出来た。
アイスランドでなくてもいいのかもしれない、けど、今の自分自身にとってアイスランドであることが大切だった。
近い内に、また必ず。



アムステルダムは、見渡す限り春だった。
この季節の独特な霞んだ青色は、どこも同じものなのだろうか。
三時間前まで極北の地にいたわたし達は、どこか浦島太郎のようになっていた。



いつの間にか厚手の服を脱ぎ捨てて外を行き交う人達は、わたし達に突然やって来た春に一つも驚きを見せていない。
肩に食い込んだザックとカメラバッグを気にかけ、わたし達は不器用にスーツケースを引きずる。
アウターどころか、パーカーもインナーも、何もかもが暑くて、アイスランドでの切れるような寒さや風の強さは瞬く間に思い出になっていく。
時刻は、13時過ぎ。
宿までのバスに揺られ、どこまでも真っすぐなオランダの風景に、わたし達は安心を寄せていた。
この旅の初日にも利用した空港に程近い安宿に荷を下ろして、フロントの横にある自動販売機で不味いコーヒーを買う。それを持ってテラスに出たシゲルさんは、何時間振りかの煙草をじっくりと味わっている。
あんなにも過酷な運転をもうしなくてもよいという安堵感が、どこかその姿から滲み出ているようだった。
テラスから見えるスキポール空港には、幾つもの旅客機が往来を繰り返す。
今日は身体を休ませるため、街へは出ずに、また空港行きのバスに乗り込んだ。



ホテルと空港は、専用のシャトルバスで約10分。
わりとご機嫌なおじさんが、これでもかってくらいにハイウェイを飛ばしていく。
シゲルさんの運転はいつでも丁寧だから、それに慣れていると、こうした時に度肝を抜かれる。どうやら、わたしは早い乗り物が苦手みたい。
すっかりと身軽になった身体で、車内の手すりを強く握った。
再び空港に着くと、運転手はまたご機嫌なおじさんへと戻り、今度はホテルに向かう旅行客を笑顔で車内に招き入れる。
この10分を、おじさんは一日に何回繰り返しているんだろう。



空港に戻ったところで、謎の街頭インタビューに声をかけられ、へらへらしているわたしはどんどんと質問をされる。
わたしが一向に質問に答えないことに、はたと気がついた美女は視線の向きを変えて、今度はシゲルさんに質問を投げかけた。
普段からわたし達はよく道を訊かれたり、写真をお願いされたりするのだけれど、声のかけやすさは世界共通なんやろうか…。
空港の窓からはもう西日が差していて、今日という一日が過ぎていく早さに、ぼんやりと悲しさを覚えた。
そして。自分達のお腹が、もっと悲しみを抱えていることにハッとする。
朝の4時頃にパンを一切れ口にしただけのわたし達は、見事にお腹の中まで身軽にさせていて、やっとこさ在り付けた食事を無心に頬張った。
時刻は、16時を過ぎている。
お腹がすっかり元通りの出っぱりへと戻り、背筋にもピリリッと力が入ってきたようだった。



食事の後、空港の中をぐるりと見て廻る。
土産物を買ったり、スーパーマーケットで買い物をしたり、美味しいコーヒーを飲んだり。
そんな中、ある店で店員から理不尽な対応を受けて、わたし達はその態度に驚愕。。。
日本とは捉え方が違うから、海外へ行くと色々と驚いてしまうこともあるけれど、相手の一方的な苛立ちで接客中に舌打ちされたのは初めてのことだった(ワタシタチハ、ナニモワルクナイデスヨ…)。
そわそわとしながら、またご機嫌なおじさんが運転するバスで宿へと戻る。おじさんの笑顔に、少しほっとする。
けれど、このそわそわは序の口だった。
今夜、あんなことが起こってしまうだなんて…


朝が来た。遂に、来てしまった。。。
なんだかどうしようもなくぽかんとしていて、最後の一日を楽しもうという気分にはなれない(根暗…)。
滞在中なかなか晴れてくれなかった空は、憎いくらいに青空。。。
宿をチェックアウトして、車に荷物を詰め込んでから、今日も朝一番にハットルグリムス教会を訪れた。
教会ではちょうどパイプオルガンの演奏が行なわれているところで、外観とは違った飾り気のない慎ましい室内は澄み渡った響きに包まれている。
受付はまだ開いている時間ではなく、展望台に上ることは出来なかったのだけれど、それでも教会には大勢の観光客が行き来をしていた。
そんな中、シゲルさんが「すっごく綺麗な人がいる」と言ったので、わたしもつられて視線を向ける。
臙脂色のコートをまとった九頭身はありそうなその女性は、コートやニット帽の隙間から僅かに覗く白い肌が輝いているんじゃないかと思うくらいに美しい。
わたしは興奮しながら「ほんまやほんまや…」と言い、発言しておきながらとっととどこかへ行ってしまったシゲルさんとは逆に、彼女から目が離せなくなってしまった。
彼女はゆっくりと室内を歩いた後、参列席に腰かけて、そっと頬を伝った涙を拭っていた。その瞬間に意味がわからないけれど、わたしももらい泣きをし、戻って来たシゲルさんを驚かす。
パイプオルガンの演奏は終わって、室内には忽ち足音とシャッター音が響き渡っていた。



旅の前に、シゲルさんは言っていた。
アイスランドへ行ったら、小さな教会でふたりだけの結婚式を挙げよう」
その計画は実行されることはなかったのだけれど、旅をしていたら、それはもうどこか充分な気がしていた。
オランダでデルフトの教会を訪れ、お父さんの根源に触れられたような気がして、どっと泣いたわたしの頭に触れた優しい手のひら。
はじめて体験したホワイトアウトに必死にハンドルを握ってくれた、あの真っすぐなまなざし。
オーロラを見上げて、あんなにも無邪気に喜んでいたやわらかな心。
いつもどこかわたしに関心がなくて、口を聞いてくれたと思ったら指摘か注意が多くて、物凄く器用でこんなにも不器用な人は見たことがないけれど…
けど、お父さん。やっぱり、わたしの旦那さんは、いい人です。
教会に立っていると、いつも心は静かに開かれる感じがする。
信じる神様が誰だかはわからないのに…わたしは勝手なものです。



教会を出ると、まだ街はしんとしていた。
土曜日。この街の目覚めは、どうやら遅いらしい。
外を歩いているのは早起きな観光客の姿ばかりで、閉ざされた扉を前にみんなウィンドウ・ショッピングのようになっていた。
わたし達はもう大きな買い物をする予定がなかったので、街のインフォメーションまで行ってタックスフリーの手続きをとっておくことに。
けれど、幾つかのインフォメーションを廻った結果、土曜日はどこもタックスフリーの窓口は開いていないみたいだった。たらい回しのようになって(大袈裟だけど…)、最後に大きなインフォメーションまで行くと、唯一、土曜日にも手続きが出来る場所を教えてもらう。それは、郊外にある大型ショッピングモール“Kringlan”(クリングラン)とのこと。
クリングランへはレンタカーを返す前に行くことにして、午前中はレイキャヴィークダウンタウンで過ごすことに。



午前10時過ぎ。オールドハーバーをうろうろとしてから(実際には迷っていただけ…)、土・日・祝だけ開催されるコーラポルティッドフリーマーケットへ。
まだロピー・セーターを諦めきれないわたし達は、掘り出し物やいい感じの古着なんかがあるんじゃないかな…という、淡い期待感を持って会場へと入った。
けれど…なんだか、すぐに違和感。。。埃っぽいし、空気も滞っているし、薄暗いし…
その凄みのあるぞんざいさに(失礼…)、あっという間に心が折れて、会場を一周して早々と退却。。。
(なんだか気持ちが暗くなってしまい、一枚も写真が撮れず。ロピー・セーターもアラフォスより高かったよ…?いや、掘り出し物もきっとあるとは思うのだけれど…)
フリマの会場を出てすぐの所には、アイスランドを訪れる観光客ならば必ずと言っていいくらいチェックしているであろう“Bæjarins Beztu Pylsur”(バイヤリン・ベスタ・ピルスル)というホットドッグスタンドがある(「宇宙一美味しいホットドッグ」って、クリントンさんが来た時に言ったらしい)。




お店はスタンド式なのだけれど、店舗の周りには幾つかのテーブルがあって、みんなそこで食べたり、立ったまま食べたり…
本当に人気店のようで、観光客だけではなくて地元の人達も次々とやって来る。
テーブルには、なんとなく一度は置きたくなってしまうホットドッグ置き場。
バイヤリン・ベスタ・ピルスルのホットドッグは、パンもふっくら!ソーセージもジューシー!!そして…何度食べてもベリーうまい、このソース!!!(次回は買って帰ろう!)
アイスランドにやって来てホットドッグはもう5つ目くらいなのだけれど(この頻度、日本ならば自己嫌悪…)、ここもやっぱり美味しかった!
食べ終わったそばから、「もう一個食べたいな…」。



本屋や土産物屋を覗き(欲しかったブランドの板チョコは、驚きの約1300円!)、ゆっくりとダウンタウンを歩いて、宿の前に停めた車まで戻る。
最後にもう一度ハットルグリムス教会へ行ってみると、今日はとてもいいお天気なので、展望台へと上るエレベーターの前には長い列が出来ていた。展望台への楽しみも、また次回にとっておこう。
車に乗り込んで、クリングランへと向かう。
「さようなら、レイキャヴィーク
声に出して言ってから、もう一度心でもとなえてみた。
空は、本当にどこまでも晴れ渡っている。
ハイウェイを進んで、クリングランへは10分程で着いた。
一階にあるインフォメーションで、証明書とパスポートとカードを渡して手続きをしてもらう。免税分はアイスランド・クローナで返金してもらったので、そのお金でまたクリングランで買い物をすることに。
土曜日だからか館内はとてもにぎわっていて、観光客らしき人の姿もあるけれど、その殆どは地元の家族連れのようだった。
こうした大型のショッピングモールは、どこの国も同じなのかもしれないなぁ…。
わたしは日本の大型ショッピングモールって結構好きなのだけれど、既にレイキャヴィークロスに陥っていて、どこか心ここに在らず…。(けれど、しっかりと買い物もする)



午後。
ケプラヴィーク国際空港へと車を走らせる。
明日は朝7時のフライトだから、空港でレンタカーを返却して、今夜は空港のホテルに泊まることにしていた。
紙芝居のように切り替わってしまった風景を眺めながら、むずむずとざわついた心の落ち着き場所を探す。
これまで色々な場所を旅して(そんなに多く旅したわけではないけれど…)、こんなにもここから離れたくはないと思ったことはあるのかな(たぶん、殆どいつも)。
旅はそれなりに疲れるし、航空券や宿泊費…普段では信じられないくらいのお金が出て行ってしまうのに、どうして旅の終わりには、もう次の旅のことを考えているんだろう。
どこまでも真っすぐに続くハイウェイで、心の中には旅のハイライトが駆け巡った。
「ヨンシー…」
空は、切ないくらいにドラマチック(…が、写真には何も写らず)。



ケプラヴィーク国際空港の周辺には、本当になにもない。
平原の中に、飛行機と風の音が混じり合っているだけ。
空港の外へ一歩と出れば、いきなり大都会が広がるスキポール空港からやって来たので、初めはそのギャップにも心細くなったものだった。
空港の入口でシゲルさんが煙草を吸っている間、わたしはアイスランドへ降り立ったばかりの旅人達を眺める。
わたし達がこの国から離れようとしている今、最後の嵐は過ぎ、渡り鳥達は飛来して、アイスランドには春がやって来た。
雨が降る日もあるだろうけれど、彼らは春のアイスランドを満喫することになるのだろうな。
それももちろん魅力的なのだけれど、けど、わたしは今回の旅で思った。
極北の魅力って、冬にこそあるのではないだろうか。
この国の夏も目にしてみたいけれど、それは金銭的に無理なので(シーズンに入ると、アイスランド国内のホテルは殆どが2〜3倍の価格となる)、春か秋もいいのかもしれないけれど、けど。やっぱり…また、白い世界を巡りたい。




ホテルにチェックインをして荷物を下ろし、レンタカーを返却してしまうと、もうどこにも行くことは出来なかった。
一番近くにある街(町?村?)も歩いて一時間以上はかかるし、空港とホテルの他に見えるものといえば、夏の出動に備える膨大な数のレンタカーだけ。
空港のホテルだから、これまでに利用したどの宿よりも立派だったのだけれど(ベッド、ふっかふか!室内は美しいくらいのバリアフリー!)、わたしはなんとなく部屋にいることが嫌で(貧乏性です…)、本当に小さな空港の中で、時間と気持ちを存分に持て余す。
そういった感情があるのか…ないのか…、シゲルさんはいつものように飄々と過ぎていく時間を受け入れているように見える。
…ちっ。




多分、夕方頃。空は、まだすっきりと晴れ渡っていた。
6月ともなれば、この国には夜がなくなって、オーロラも少しの間だけ眠りの時間に就く。
外はこんなにも寒いのに、もう夕方なのに、こんなにもお天道さまを感じられることが、やっぱり日本に暮らすわたしには不思議だった。
(ところで。あれは茄子だろうか…)



カフェでのお茶を終えると、さすがにもう空港ですることもなくなって、とぼとぼと部屋へ戻った。
シゲルさんは一つしかない座り心地のいいソファをあっさりと独占して、窓辺で読書。わたしは取り敢えずベッドの上でバインバインッと跳ねてみてから、荷造りをすることに。
「使い捨てカイロと未使用のメイク落とし、よかったら使って下さい」
空は、ゆっくりと夕焼け。



太陽がどこかの国へとお出かけしていく頃、シゲルさんの煙草に付き合って外へ出た。
大きな大きな空の下に、頼りないわたし達の影が伸びている。
こんなにもはっきりとした夕焼けは、アイスランドに来てから初めてかもしれない。
冷たい空気を頬に感じながら、その場に立ち尽くしていると、突然の雨に見舞われた。次の瞬間、見事な半円形の虹が現れる。
魔法みたいなそれを見上げながら、意味がわからないまま、わたしはぼろぼろと泣いた。
頬も、上着も、カメラも、どんどんと濡れていく。
悲しいんじゃなくて、感動的だからでもなくて、大好きな人と一緒にいられるからでもなくて…
なんだろうか、この感情は。



いつもは「濡れるから、早く戻ろー」とか言うシゲルさんも、何も言わずに虹を見上げていた。
太陽が沈む。
虹は、ゆっくりと「さようなら」を告げる。
空は、群青色。


8時まで眠って、ゆったりと朝ごはんを食べる。
共同のキッチンスペースで食事の準備をしていると、宿泊客のフランス人ふう(?)おばさまに着ていたワンピースを褒められ、少し上機嫌。
10時前に出発。まずはハットルグリムス教会の展望台へ上って、レイキャヴィーク市内の街並を眺めようと考えていたのだけれど、教会ではお葬式が行なわれているところだった。
教会について詳しくはないからわからないのだけれど、ここで葬儀が出来るというのは立派な人だったんだろうか…それとも市民であればここでお葬式を挙げることが出来るものなのかな。
そっと目を瞑り、その場を離れる。
それから宿の前に停めていた車に乗り込み、レイキャヴィークから15kmほど離れたアゥラフォス(Álafoss)という小村へ向かった。
アゥラフォスにはシガー・ロスが所有していたレコーディング・スタジオとアイスランドの伝統的なロピー・セーターのニッティング工場がある。
昨日、ヨンシーに会ってポートフォリオを渡すことが出来たのだけれど、スタジオの周辺はずっと訪れてみたい場所だった。
アイスランドへ来てから幾度となく出会うラウンドアバウト(日本でも話題の!)にもすっかりと慣れ、シゲルさんはスイスイとハイウェイを進んで行く。



レイキャヴィークを出発して、アゥラフォスには20分程で到着。
村のメインストリートであろう小さな通りには、幾つかのクラフトショップが軒を連ねている。
その周辺の広大な土地には、どんどんと建設されていく新しいマンション。
シガー・ロスのスタジオとニッティング工場は、村に入ってすぐの所に向かい合わせにして建っていた。
アイスランドへ来る前には、ふたり揃って「向こうでロピー・セーター買おうぜぇい」と意気込んでいたのだけれど、こちらに来てからは物価の高さにおののき、アークレイリやレイキャヴィークダウンタウンにあるショップなどでロピー・セーターを見かけても尻込みをしてしまっていた。
けれど、アゥラフォスのニッティング工場では、そのロピー・セーターがダウンタウンで購入するよりも20〜30%は安いとのこと。
わたし達は工場内にある広いショップでロピー・セーターを吟味し(物凄い品揃え!)、それぞれにお気に入りの一枚を探し出す。そして、店員さんに話を訊きながらフィッティングをしたりして、互いに「いいねぇ」「いいねー」と褒め合いながら、「ミナちゃん、買いなよ」「いや、シゲルさんの方が似合うから、シゲルさん買いなよ」と言い合った。
結局、20〜30%安くはなっているものの、ふたりでそれぞれに一枚ずつ買う勇気は出ず。。。ここまで来たというのに…。泣
互いに譲り合ったまま、わたし達は家族へのお土産に“VARMA”というブランドのウールソックスを購入しただけで店を出てしまった。
恐るべし北欧の物価の高さ&旅先でも散財出来ぬわたし達の懐事情。。。
(それでも、このニッティング工場はほんまにお勧めやと思います!)



クラフトの村ということもあるのか、アゥラフォスでは所々でヘンテコなものを発見。
写真にはないけれど、日本語で「希望の木」(…やったかな)と書かれた記念樹(?)のようなものも。



アイスランドへ来てから、とにかくわたし達のお腹は満たされていなかった。
毎日自炊をして、それなりに食べてはいたのだけれど、物価の高さ&節約旅行のために色々な食材を買うことは出来なかったし、宿では思うように料理も出来ない。
ガソリンスタンドにあるカフェで比較的安価なホットドッグやハンバーガーを頬張ってはいたけれど、まだ一度もレストランで食事をしたこともなかった。
オランダでは満江先生や奥さまに沢山の美味しいものを作っていただいたので、アイスランドでこれといったものが食べられていない、そのギャップは大きい。
アイスランドでの観光も、明日が最後。
せっかくなので、アゥラフォスで初めてきちんとした外食をしてみることに(と言っても、気軽に入ることの出来るカフェ)。



店内へ入ると、ふわりと感じた美味しい香り。
まだオープンしたばかりだったので、来客はわたし達以外には誰もいないみたいだ。
にこやかな店員さんがテーブルまで案内してくれ、メニューを差し出してくれる。
久しぶりの外食にどこか姿勢を正しながら、心弾む想いでアイスランドの伝統的な料理が並んだメニューに見入っていると、店内に続々と周辺の建設現場で働くガテン系(?)な男達が入って来た。
壁面にはアーティストの作品が飾られている小洒落た店内は、一気に筋肉隆々な男達で埋め尽くされる。。。その中に、観光客はわたし達ふたりだけ。なんだろう、この雰囲気は…。
男達は慣れた様子で、注文もせずに店内の端に並んでいたランチバイキングを皿に盛って、思い思いのテーブルに着き食事を始めた。
その一連の流れを見ていたら、「アイスランドといえば、やっぱりラム肉かシーフードよね」とか言っていた我々も(そんなふうに言うのはわたしだけれど)、ランチバイキングが食べたくなってしまう。その中には、アイスランド料理など一つもなかったのだけれど。。。



店員さんにそのことを伝えて、わたし達も男達が並ぶ列へと続く。
料理の並んだバイキングのテーブルには、ミートボール、タイ風カレー、蒸かしたじゃがいも、玉ねぎのバターソテー、生野菜、そして、デザートにライスプディング
わたしはアイスランドに来てから殆ど食べることの出来ていない野菜をもりもりと頬張り、そのあまりの潤いに思わず涙が滲む。その横では、シゲルさんが腹をはち切らさんばかりにおかわりを続けていた。。。
逞しい男達に囲まれ、それはなんだか『天空の城ラピュタ』の飛行船での食堂のシーンのよう。
このランチバイキングが一人1600円くらいだったから、今思えばもっと色々なお店を調べたりして、少しは外食を楽しんでもよかったのかもしれない(今更…)。
すっかりお腹も心も満たされて、元気も腹もバッチリと出てきたようだった。



見事に重たくなった腹を抱え、シガー・ロスのスタジオの前に佇む。
以前、シガー・ロスのメンバーであるオッリもこのスタジオの横に住んでいたそうだけれど、実際に建物には生活感が滲み出ていて、なんだか見ていることも申し訳ない気持ちに。。。
それでも、ここでシガー・ロスの曲が色々とうまれたんやなぁ…と思ったら、心にどっと静かな興奮が溢れ出した(スタジオの中を見られるわけではないのに)。
シゲルさんに「あんまりぐいぐい覗いたらあかんよ」と言われながら、抜き足差し足で周辺を一周。怪しい者ですが、そこまで怪しい者ではありません。
…こうしたファンは世界中からやって来るんやろうなぁ…。なんだか、すみません。。。




シゲルさんに「もういいやろ」と言われながらアゥラフォスを後にして、レイキャヴィークの端っこにあるグロッタ灯台(Grótta Lighthouse)へと向かった。
わたしの趣味の一つに「日本の灯台50選を巡る」というものがあって、この旅へ出る前にもアイスランド灯台について調べ、幾つか見て廻る予定を立てていた。
けれど、実際に来てみると、冬場に一号線から外れて海沿いの道を行くことは困難だということを知る。
それでも南西部に下って来てからは、趣味の灯台巡りも再開し、グロッタ灯台もその中の一つだった。
ただ。街外れの灯台には、期待感は薄い。内海よりも、荒々しい外洋に面した灯台に興味があるからだった。



辿り着いたグロッタ灯台は、思った以上に見事なフォルムをしていて、思わず興奮に尻が震える。
この灯台は小島の上に建っていて、引き潮になった時だけ上陸することが出来るようだった。
わたし達が到着したのは、ちょうど引き潮の時間帯。嬉しくなって、ぐいぐいと灯台までの中州を進んで行く。
そんなご機嫌な道中で、はたと振り返ったシゲルさんが「ミナちゃん、あかん。満ちてきてる…」と言ったので、遅れて振り返ったわたしも続いて青ざめた。
その潮が満ちていくスピードの早さと、シゲルさんの岩場を駆ける軽快さといったら。。。
慌てて岩場に移動して、そのまま岩伝いに岸まで戻った。もし、帰れなくなっていたら…。ぞっ。



アイスランド語はちっともわからないけれど、どうやら夏場は自然の繁殖を守るために、グロッタ灯台へは上陸出来みたいだった。





ランチバイキングをし過ぎたせいもあって、ふたりで海沿いの遊歩道を意味もなく歩く。
露出された肌はちぎれんばかりに寒いし、風はゴーゴーと吹き荒れているというのに、遊歩道には散歩やジョギングをする人達の姿がある。
そんな中、すれ違う人達はジロジロとわたし達を見た。ここへはあまりよそ者は来ないのだろうか(わたしがずっとぶーぶー鼻を擤んでいたせいもあるとは思うけれど…)。
2キロ程歩いたところで、身体も心も充分に冷えきり、見事にシゲルさんのトイレも近くなる。
ちょっと小走りにまた2キロ歩いて駐車場まで引き返し、街へ戻ることにした。



シーフードレストランやホエールウォッチングなどの窓口が集まる、レイキャヴィークの観光スポット“オールド・ハーバー”。
この場所からも、街のシンボルであるハットルグリムス教会やハルパ(オラファー・エリアソンファサードを手がけたコンサートホール)を望むことが出来る。
倉庫が連なった通りには、庫内を改装したショップやギャラリーが建ち並び、どこかオシャレな雰囲気。
予備知識はなかったのだけれど、人気のエリアなのか、多くの観光客が行き来をしているのが見られた。



そんなオールド・ハーバーに店舗を構える、レイキャヴィークのホットな(?)アイスクリーム屋さん“Ísbúðin Valdís” 。



お店に入って店内をキョロキョロとしていると、先客のマダムが「そこで整理券を取って順番を待つのよ」と教えて下さる。
若いイケメンなお兄さんに、ふたりで1カップ2スクープのアイスクリームを注文(ソルティバニラとチョコレートだったような…)して、店の外へ出て食べる。
店内にも気持ち程度のイートインスペースがあるのだけれど、多くの人達はこうして店先でアイスクリームを頬張っていた。さっきの上品なマダムも、大人っぽい十代であろう女の子も、強面なおじさんも、みんな無心でアイスクリームを口へと運ぶ。甘い物って、人を無防備にさせるのだなぁ。
さっきあんなにも食べたというのに、シゲルさんとわたしの間ではアイスクリーム紛争が勃発。。。
お店の移り変わりが激しいといわれるレイキャヴィークだけれど、このアイスクリーム屋さんへはまた行けたらいいなぁ。



夕刻。仕上がった現像を取りに行き(お会計とネガの汚さに涙…)、宿の前に車を戻して、またレイキャヴィークダウンタウンを歩く。
レイキャビークの街を歩いていてよく見かけるのは、店舗などの壁面に描かれたストリート・アート。
いたずら描きのようなものではなくて、これらは様々なアーティストが手がけており、一つの野外作品として成り立っている。
グラフィカルなものから、具象絵画のようなものまで…ストリート・アートを写真に撮って廻る観光客の姿は本当に多い。
わたしが好きなのは、きのことフクロウの壁画。どちらも雑誌で見ただけで、実際には見つけられなかったのだけれど…。






日の入りが近付くと、いつもは観光客でにぎわいを見せているダウンタウンに、多くの地元の人々が集い始める。
どうやら金曜日の夕方は(金曜日だけかはわからないけれど)、様々な飲食店で“ハッピー・アワー”の制度が設けられているらしかった。
通りから窓越しに店内の様子を伺ってみると、夕方からビールを囲んでご機嫌なシティの人達の姿。どの人達もオシャレをしているように見えて、その姿は男性も女性もかっこいい。
やっぱりレイキャビークは小さな街だからなのか、別々のグループで集っていても、すぐに他のグループに知人を見つけてにぎわう…といったような場面も何度か見かけた。
歩き疲れた後、そんな楽しそうな制度を少し羨ましくも思いながら、わたし達はブックストアのカフェへと滑り込む(わたしはお酒が全く飲めない。ごめんね、シゲルさん…)。そして、また甘いもの…。
「明日で最後なんて、嫌やっ!」「まだ何にも見れてない!」などと、シゲルさんに泣き言をこぼしながら、ふんふんとケーキを平らげる。
にぎやかな人波を縫って、レイキャビークの街には夜が来た。


朝、穏やかな晴れ
パンにクリームチーズを塗ってローストビーフを挟み、それらを袋に詰めて、宿を8時前に出発する。
午前。レイキャヴィークから40キロ程走り、世界遺産でもあるシンクヴェトリル国立公園(Þingvellir National Park)へと向かった。
1号線から36号線へと入り、のんびりとした運転になったところで、車内の中でサンドイッチを頬張る。
途中、標高が高くなったのか、また一面に白い世界が広がった。
雪の中に見る、なんとも言えない湖面の色。
この辺りにはシンクヴァトラヴァトン湖(Þingvallavatn)という大きな湖を筆頭に、多くの湖が点在している。
ぼんやりと風景に溶け込んでいると、朝陽が昇って、世界がきらめいた。



シンクヴェトリル国立公園も間欠泉やグトルフォスと同様に、ゴールデンサークルと呼ばれる人気の観光スポットなので、朝早くから多くのレンタカーや観光バスが行き来をしている。
多くの車はかなりの勢いで飛ばして行くので、ゆっくりと走行しているわたし達の車はどんどんと追い抜かれていく。
写真を撮りたくなって停車する回数も多いので、きっと飛ばしていく人達よりもうんと長い時間をかけて目的地に向かっているのかもしれない。
わたしが鈍臭く写真を撮っている間、シゲルさんはしびれも切らさずに持ってくれている。
これは交際を始める前から変わらないことだけれど、それはとても有り難いこと。
その深い理解と協力に感謝をして、想いを込めてシャッターを切る。記憶はそれぞれに違うものだけれど、それでも時折「重なれ…」と思って念を込める。
いい写真が撮れていてもいなくても、振り返れば、いつもシゲルさん。




シンクヴェトリル国立公園のメインスポットに着くと、すぐに“ギャウ”は広がっている。
“ギャウ”とは、地球の割れ目のこと。
なんだか壮大過ぎてよくわからなくなるけれど、ここはユーラシアプレートと北アメリカプレートの境目の場所だという。
このギャウが陸上で見られるのは世界で二カ所だけだそうで(もう一つはアフリカ)、その地勢を見るために年中を通して本当に多くの観光客が訪れる。
大陸創世の源である場所…
そう思うと、なんだかとても凄いのだけれど、綺麗に造られた展望台の上に立ち、世界中からやって来た団体の観光客にもまれながらギャウを見下ろしていると、相変わらず混雑に弱いわたしは感受性ゼロ…みたいになってしまった。。。
「ほら、お父さん。そこに立って!写真撮るから!」
日本の団体観光客を見かけたのは、これが初めてのこと。



続々とやって来る観光客の波に逆らいながら、もそもそと展望台から降り、ギャウの間を通る遊歩道を進む。
遊歩道も綺麗に舗装されていて、安全かつ快適。
このギャウは今でも少しずつ裂け続けているそうで、アイスランドの国土は毎年2〜3センチ広がっているのだそう。
ギャウの断面層には過去数千年〜数万年の痕跡が見られて、それぞれの石の形や重なりに「そうなのか…」と思い、どこかぽかんとする。
この感受性のなさ、如何に…。



ギャウの横を流れている川は凍りついているのに、周辺にあまり雪が積もっていないのは、この辺りの地熱活動が活発だからなのかな。
こんなにも寒いのに、ちっとも雪が積もっていないことにぼんやりとしながら、川の流れと氷の揺らめきを眺めて「アークレイリの雪が恋しいなぁ…」と思った(ブリザードホワイトアウトはちっとも恋しくはないけれど…)。
わたしはどうしてこんなにも雪のある風景に惹かれているんだろう(日本海の血が流れているからかな…)。



南国の紀伊半島で、夏が来れば「海だ!川だ!山だ!」みたいに育ったシゲルさんは、相変わらず苔に夢中。
シゲルさんは、どうして苔に惹かれているんだろう…(熊野古道の血?)。



シンクヴェトリル国立公園の周辺は硫黄のにおいが強くて、近くでは地熱発電所からの煙が幾つも上がっていた。
朝から空はずっと穏やかで、気温もこれまでと比べたら随分と心地良い。
そんな中、苔むした溶岩石と湖の広がる風景に立っていると、急にめまいが襲った。
硫黄のにおいからなのか…旅の疲れがたまってきているのか…
シンクヴァトラヴァトン湖をぐるりと一周し、早々とレイキャヴィークの街へ戻ることにする。



帰りに立ち寄った、小さな町にあるMosfellskirkjaという教会。
アイスランドの教会は小高い丘の上にあることが多くて、そこから望むことの出来る町の風景はいつも素敵だった。
教会の前へ立つと、強くて冷たい風が吹く。
めまいの感じていた身体に、心地のよい風。
この旅の終わりが、もうすぐそこまで来ている。



宿へと戻り、シティな服(?)に着替えてから、レイキャヴィークダウンタウンへと出かける。
すると、宿を出てすぐに所で、下校途中の小学生から「あなた達は日本人ですか?!」と英語で声をかけられた。
小学4年生くらいの女の子二人組だ。
その高めのテンションに驚いていると、女の子達は間髪を入れずにどんどんと話しかけてくる。
なんでも日本のアニメがとにかく大好きでたまらないようだ。
好きな漫画のタイトルを色々と言ってくれる女の子達を前に、英語も漫画もちんぷんかんぷんなわたしは「日本のアニメは、すごいね…」とか思いながら、にこにこと女の子達を眺める。
「どうしても日本に行きたいの!」そんなふうに言う女の子に、シゲルさんは優しく言った。
「日本はとても綺麗な国だよ。いつか必ずおいで」
女の子達は「日本人と喋っちゃったーーーっ!」と無邪気に喜んでいて、その姿を眺めていたらなんだか無性に嬉しくなってしまった。
日本からうんと離れたここアイスランドで、こんなにも日本を想ってくれる小さな女の子達がいるのだな。
しかし…超ヤングガールズよ、どうしてそんなにも英語がペラペラなのか………(アイスランド公用語アイスランド語です)。
たっぷりとした微笑ましい気持ちを抱えながら、宿からも程近い12Tonar(トルフ・トナル)へと向かう。
ここ12Tonarは世界でも有名な、レイキャビークにある小さなレコード店
わたしはここでの買い物をとてもとても楽しみにしていた。
店に入ると、ナイスガイな店員さんが挨拶をしてくれ、わたし達にエスプレッソを運んで来てくれる。そして、「探している物があれば、いつでも声をかけてね!」と言ってくれたその対応に、なんだか訪れる人達を大切に思ってくれていることが伝わった。
そんな居心地のいい店内には、ソファに座ってゆっくりと試聴を楽しむ人達の姿。
わたしは日本ではなかなか思うように手に入らないアイスランドのCDを5枚ほど購入して、ほくほくとした気持ちになった。
「ミナちゃん、ちょっと飛ばし過ぎだよ…」



五月〜八月の間にアイスランドへやって来るという、この国のマスコット的な渡り鳥“パフィン”。
街のあちらこちらで大量に売られているぬいぐるみは、ずんぐりむっくりとしたキュートなフォルム。
けれど、実物は赤い目がちょっと怖くて(写真でしか見たことないけど…)、食用でもあるそうな…。美味しいんやろうか。。。
ダウンタウンには本当に沢山の土産物屋が点在しているのだけれど、その物価の高さにすぐにノックアウトされ、殆どスルー状態。。。
12Tonarでの買い物で、全てのショッピングが終了してしまったような心持ち…。



ドアマン?



超ヤングガールズに声をかけられた後にも、素敵な出会いがあった。
わたしがアイスランドへ行く前から拝見していたレイキャヴィーク在住の日本人女性のブログがあるのだけれど、その方に偶然お会いすることが出来たのだ。
偶然と言っても、わたしは彼女が勤めているお店を知っていて(こう書くと、ちょっと怪しいけれど…)、そのお店の前を通りかかった時に日本人の店員さんの姿が見えたので、「きっと、そうだ!」と胸を高鳴らせてお店へと入った(やっぱり怪しいかな…)。
すると彼女も日本人がやって来たことにすぐ気がついて、声をかけに来て下さる。
とても気さくな方で、ブログの文面から感じていた通りの優しいお人柄。
お店には週に2〜3日しか出られていないそうなので、わたし達の短いレイキャヴィーク滞在中に出会えたことは、やっぱりとても偶然なことのように思えた。
レイキャヴィークの情報も色々と教えて下さり、シゲルさんとわたしはすっかり嬉しくなってしまって、べらべらと話し込んでしまう…。
このお店はアイスランドデザイナーによるアクセサリーショップなのだけれど(セレクト雑貨もあり)、アイスランドの自然からインスピレーションを受けた作品には、繊細で女性らしいデザインの中に力強い美しさがあった。
実は。未だに結婚指輪のないわたし達は、いつかここのショップでリングを見つけたい…と、わたしは勝手に思っている。
アイスランドに暮らす日本の方にお会い出来たこと、本当に嬉しかったです。



そして。楽しかったお喋りの後にも、素敵な出会いは続いてしまった。。。
今となってみれば、この日はもう魔法がかかっていたとしか言いようがない…そんな出会いの連続だったように思う。
ちょっと興奮した気持ちでお店を後にして、ブローニーフィルムの現像を出すためにラボを探し始めた頃、突然の雨に見舞われた。
わたし達はカメラを提げていたので、大急ぎでコンビニの軒下で雨宿りをする。
どんどんと勢いを増していく雨に「宿も近いし、一度部屋に帰ろうか」と話しているところで、スーッと晴れ間が戻り始めた。
この国の天気は、本当にわからないのだ。
「よかったよかった」などと言いながら、またラボを目指して坂道を下り始めると、その道をツイーッと上ってくる一台の車のドライバーと目が合った(悔しいけれど、シゲルさんが)。
「!!?」
「!!!」
「ヨ、ヨ、ヨンシーだーーーっ!!!」
*ここからはエキサイティングした日記なので、どうぞスルーしてお進み下さい…*
シゲルさんとわたしは「あわわわ…」となりながら、通り過ぎて行ったヨンシーの車を振り返る。
ここでヨンシーの車が坂を上って行ってしまけばそれまでの話だったのだけれど、車はわたし達のすぐ後ろで停車!!!
「どうしようどうしようどうしよう…」
わたしはシゲルさんの腕をぐっしゃぐっしゃに握りしめながら、ジタバタとする。
それには大きな理由があったからだ。
この旅へ出る前のこと。写真学校時代の先生に会いに行き、アドバイスをもらいながら、わたしは七年振りにポートフォリオをつくった。
そのポートフォリオを、シガー・ロスのスタジオの前に置いて来ようと考えていたのだ(迷惑だけれど…)。
けれど、わたしはアイスランドの風景に呑まれ過ぎていて、そのポートフォリオのことをすっかりと忘れ、昨日までは一度もスーツケースから出すことはなかった。
なのに、今は持っている。
街へ出る前に、シゲルさんから「これからラボも探すし、何か役に立つかもしれないから、ポートフォリオ持って行けば?」と言われたからだった。
ヨンシーが目の前に現われたことにもビックリしていたけれど、その偶然にも胸が高鳴ってしまって、もうめまいがしてきそうだった。ジェットコースターが頂点に達した時の、あの気持ちとどこか似ている。
けれど、ヨンシーは目の前のお店で買い物をしていて、プライベートだし、声をかけるのは申し訳ない…
そんなふうにずっともじもじしていると、シゲルさんが言った。
「ミナコがシガー・ロスに届けたいって、想いを込めてつくったポートフォリオを今持ってるんやで。それで、ヨンシーに直接手渡せるチャンスが来たんやで。こんなことないで。でも、僕は手を貸さない。ミナコ自身が決めればいい」
それを言われた瞬間に、なんだかわたしは勇気が出て、申し訳ないと思ったけれど、買い物を終えたヨンシーに思い切って声をかけた。
が、わたしの英語は全く通じず…。OMG…
不思議がるヨンシーの前で、更に「あわわわ…」となってしまった。。。
すると。思い切って声をかけたわたしの姿を見届けて、シゲルさんが駆け寄って来てくれる(ヨンシーはちょっとほっとした顔)。
そして、シゲルさんがヨンシーにわたしの想いを伝えてくれた(情けなくて、すみません…)。
ヨンシーは笑顔でその話を聞いてくれて、両手に沢山抱えていた荷物を全て片手に持ち直し、わたしの手を握ってくれる。
「クールな贈り物を、ありがとう!」
わたしはその手を両手で握りしめ、ヨンシーの笑顔を目に焼き付けた。
魔法みたいな、幻みたいな、オーロラみたいな…そんな時間。
見えなくなるまで手を振って、ヨンシーの車を見送る。
そして、一気に身体に震えが起こった。




ラボを探していたはずだったのに、もうそれどころではなくなっている。
さっきの雨宿りがなかったら…日本人女性に会えていなかったら…超ヤングガールズが声をかけてくれなかったら…
そんなふうに一つひとつを辿っていくと、またどっとした熱いものが込み上げた。
突然の雨に、ありがとう!Tさん、ありがとう!超ヤングガールズよ、ありがとう!背中を押してくれたシゲルさん、ありがとう!
そして。ヨンシー、ありがとう!
あー、先生に会いたいよぉーう。
震えた身体を両手で抱えていると、出会った人達の笑顔や先生の言葉が走馬灯のように駆け巡っていた。わ、わたし、死ぬのかな…。
レイキャヴィークの人達の憩いの場でもあるチョルトニン湖まで行き、水鳥を眺めながら、どきどきとした身体と心を落ち着かせる。
アイスランドは「氷と火の国」と呼ばれているけれど、「ここはほんまに魔法の国かもしれん…」と思いながら、暫くは心が戻って来そうにはなかった。
あんなにもヨンシーと会話していたシゲルさんは、もう目の前の水鳥達に夢中になっている。。。





チョルトニン湖でひとしきりの熱を冷まし、街のインフォメーションまで行って、ブローニーフィルムが現像出来るラボの場所を聞く。
ダウンタウンからは少し離れた場所にあったので車で行ってもよかったのだけれど、まだ興奮していたわたし達は(わたしは)ラボまでの道程を歩いて行くことにした。
「ヨンシーに、ヨンシーに会っちゃったーーー!」
シゲルさんとわたしはトトロに会ったサツキとメイみたいに、ヨンシーに会えた興奮を話しながら歩く。
けれど。。。ラボは思っていた以上に遠くて、興奮も冷めた感じで到着…。
そして、受付のお姉さんの冷たさと(クールさ?)、アークレイリよりフィルム1本辺り200円(!!!)も高い現像代に、一気に心も身体も冷え込んだ。ブルッ。。。



とぼとぼとまた一時間程かけてダウンタウンまで戻り、Bónus(スーパーマーケット)で晩ごはんの食材を調達。
ダウンタウンのBónusは観光客や地元の人達でとにかく混み合っていて、いやらしいわたしは「みんな何を買っているのかな…」と、人様の買い物カゴの中をちらちらと覗く。
長い列が出来ていたレジを終えて店の外へと出ると、雪が舞っていた(さっきまで晴れ渡っていたというのに、この国のお天気ときたら!)。
Bónusの軒先で雪が止むのを待ちながら、ぼんやりとダウンタウンの風景を眺める。
レイキャヴィークの人達は、どうしてこんなにもオシャレに見えるんだろうか…。そして、ホットな女性は何故かみんな全身黒い(服装がね)。
暫くすると雪も止んで、道路に出来た水たまりに西日が当たる。
雪宿りですっかり冷えてしまった身体を、Reykjavik Roastersというカフェへ行って暖めることにした。
ここはアイスランドへ来る前から来たいと思っていたお店の一つ。
(実は。12Tonarへ行った後にも覗いたのだけれど、その時は満席で入れなかった。それもヨンシーと出会えたことと繋がっている!…何度も、すみません)
店内にはレイキャヴィークのクールな若者達が集っていて、じゃがいものようなわたしは一瞬たじろぐ。観光客でにぎわっていたCafé Lokiとは、全く違った雰囲気…。
けれど、コーヒーの味は丁寧で美味しく、お店の雰囲気もよくて、スタッフのお姉さん(確実に年下…)は美人、お兄さん(確実に年下…)もかっこいい。そんな空気にわたしも混じれているんだわ…と、思っていたかどうかはわからないけれど、すっかりうっとりしてしまい、随分と長居をしてしまった。
気が付くと閉店の時間を大きく過ぎていたのに、お店の人達は全く急かす様子がない(空気読めていないだけかな…)。「なんだかいいなぁー」と思いながら、ほくほくとした気持ちでお店を後にした。



これが首都だとは思えない程、レイキャヴィークダウンタウンは本当にこじんまりとしている。
それでも、そんな中に多くの素敵なお店がぎゅっと集まっているのだから、その楽しさといったら、もう…!
アイスランドを訪れる観光客のリピート率は、なんと70%以上なのだそう。
もちろん圧巻の大自然に魅了される人達が多いと思うのだけれど、こうした街の居心地のよさもきっとくせになってしまうのではないだろうか。
わたしはアイスランドの音楽に惹かれてここまでやって来たけれど、すぐにこの国のありとあらゆるものの虜になってしまった。
この国は、街と街の間に果てしない余白があって、豊かな自然の中には、いつも美しさと悲しさがある。
そして、街に辿り着けば、いつでもほっとする居場所を見つけることが出来るのだ。
これから何度、この国を訪れることが出来るのかはわからないけれど、わたしの人生にとってアイスランドはとてもとても大きな存在となってしまった。
超ヤングガールズよ、おばさんもこんなにもアイスランドを想っています。



夜。宿に戻り、共同のキッチンで晩ごはんの支度を始めると、野菜を切っていたわたしの横でトマトソースの缶を開けてくれていたシゲルさんが「そうきたかー」と言った。
今夜はトマトソースの缶を使ってスパゲッティを作ろうと考えていたのだけれど、アイスランド語のわからないわたし達の買い物はいつも商品のパッケージ頼み。
そして、トマト缶だと思ってさっき買って来たそれは、なんとトマトソース味のスパゲッティ缶だった。。。
初めて目にする異様な缶詰の光景に、ふたりで少し固まる。それから、ひとしきり笑って、ずぶずぶのスパゲッティを仲良く半分こにして食べた(スパゲッティの缶詰って需要あるのかな…)。
昨夜に続き残念な晩ごはんだったけれど、これも旅ならではの楽しい思い出。
スパゲッティは、もちろんとってもまずかった!
深夜。シゲルさんが「星を見に行こう!」と言うので、また防寒着に着替えて外出。
車で郊外へ出たけれど、星は見えないは、道に迷うは…で、結局すぐに戻って来ることになった。
そして、戻って来たところで、昨日のチャウチャウと遭遇!
「!!!」
わたしは英語も出来ないのに、飼い主さんは怖い人かもしれないのに、想い抑え切れずで、ふがふが言うチャウチャウを撫でまわし、「ソー、キュ〜ト♡」とか言う。
飼い主さん、めちゃくちゃにいい人。ほっ。
ああ、今日はテンション高めの超ヤングガールズとTさんとヨンシーとチャウチャウで、なんて一日やったんやろか。。。
部屋に戻り、小さな音量でヨンシーの音楽を訊きながら、うっとりと就寝。
嗚呼…魔法の国、アイスランド

今日はぐだぐだです。。。

朝。「雨の音がするな…」と、部屋のカーテンを開ける。
やっぱりのじゃじゃ降り。天気予報は全く外れず…。
ここヴィークは、アイスランド国内でも雨がよく降る地域なのだそう(屋久島的な?)。
「昨日の晴れは、ほんまに奇跡的や…」とか、「あのオーロラは幻か…」とか、完全に根暗モードが復活。。。
ああ…。



今回の宿は、はじめての朝食付き。
朝ごはんは8時間半から共同のダイニングルームで始り、宿泊客全員と一緒に食卓を囲む(客室が4つの小さな宿)。
テーブルの上に並べられていたのは、パンケーキ、バターロール、ハム、チーズ、トマト、きゅうりなど…
ハムが並べられていたお皿にはラム肉のスモークもあって、わたしはたぶんはじめてのラム肉。スモークさが絶妙で、臭みも感じず、美味しくいただくことが出来た(アイスランドのラム肉は格別だそうです)。
けれど…
思いがけず、シゲルさんが宿の奥さんにいじわるをされて、場の空気が一瞬かたまる。
そのあからさまな態度に、わたしは驚いて暫くどきどきしていたけれど、なんだか段々と腹が立ってきてしょうがなくなった。
「くっそーっ。英語喋れたら、文句言ってやるのに!」
「ミナちゃん、喋れても言えないでしょ…」
その後、宿泊客のみんなが優しく接してくれるようになって、それもどこか悲しかった。
なんだかよくわからない悔しさがあるけれど、これも旅の一つの経験なのだな。。。



10時頃に、宿をチェックアウト。
昨日は13時間を超えるロング・ドライブだったので、今日はヴィークの周辺を散策して、レイキャヴィークの街までゆっくりと時間をかけて戻ることにしていた。
この辺りには、ブラックサンド・ビーチと呼ばれる絶景を望むことの出来る海岸もあるし、セリャラントスフォスやスコゥガフォスの滝などでものんびりとしたい。
そんなふうに考えていたけれど、ブラックサンド・ビーチへと向かう途中、雨は身の危険を感じる程の土砂降りに。。。
暴風と濃霧との怖さも相まって、わたし達はビーチへ行くことをあきらめることにした。すぐそこなんだけれど…。
再び、予定は白紙に。。。



ヴィークからレイキャヴィークまでは車で二時間ほど。
ワイパーが全く仕事し切れていないのを眺めながら、もうこの旅も終わるんやなぁ…と感じた(まだアイスランドには数泊するし、オランダにだって戻るのだけれど)。
途中、スコゥガフォス(Skógafoss)へは立ち寄ることに。
一号線から少しだけ奥まった場所にあるので、昨日は通過していたところ。
絶え間なく降りしきる雨の中でも、観光バスは続々とやって来る。
けれど、バスから降りてくる人達は、皆この豪雨にとても不快そうな表情を浮かべていた。
晴れの日と雨の日とでは、雲泥の差があるものねぇ…
そんなふうに感じながら、わたしも皆と同じようにむっつりとした表情のまま、「シゲルさん、そこ立って」とか言って写真を撮る。



晴れの日にはうきうきとしたりするのかもしれないけれど、むっつりとした表情を変えることなく滝のそばまで行ってみると、ここは崖上へも登ることが出来るようだった。
この雨の中でも急な傾斜を登って行く人達の姿がある。
大粒の雨と滝からの水煙を受けて空を仰いでいると、崖の奥まった岩肌には無数の白い鳥が巣ごもりしているのが見えた。
昨日もよく見かけた鳥だけれど、なんという名前の鳥なのだろう。
あまり滝には惹かれないシゲルさんが「もう行こうよ」と声をかける中、わたしは暫く雨に打たれながらじっとしていた。それはなんだか滝行みたいだな…とか思いながら。



80キロほどの距離を、雨に気をつけながらゆっくりと走る。
昨日も立ち寄ったハヴォルスヴォルールという小さな町のN1(ガソリンスタンド)まで来て、ここのNesti(カフェ)でお昼ごはんを食べることに。
ちょうどお昼時ということもあったけれど、カフェはなかなかのにぎわいを見せている。
素っ気ないチーズバーガー(1300円ほど)をオーダーして、外の雨とカフェの店内を交互に眺めながら食べた。
「昨日のきらきらとしていた気持ちが、もうどこか懐かしく感じる…」と思いながら、時間をかけて食べるお昼ごはん。
上手く言葉には出来ないけれど、わたしが持っている旅のタンクというものがあるのなら、そのタンクは昨日の氷河を目の当たりにして、既にいっぱいになってしまったようだった。
だからなのか…まだ旅は続いているのに、もうどこかアウトプット出来る方法ばかりを考えている。
カフェを利用している人達もどこかぼんやりと食事をしているように見えて、この国の雨がいろいろなものを滞らせてしまうのを見てしまったような時間。



午後。更に、雨は強まる。
一度、給油のために車から降りると、バケツの水をかぶったようになって、息をするのが苦しかった。
顔や身体に当たる雨粒が痛いと感じるのは、初めての体験かもしれない。
雨は風と力を合わせて、ゴーゴーという音を立て続ける。
この旅の給油では、シゲルさんが給油作業をして、わたしがお会計をするという流れだったのだけれど、この豪雨ではもう何もかもが煩わしい。
アークレイリでもそうだったのだけれど、こうした余地のない体験にシゲルさんもわたしも途中から笑いが止まらなくなってしまって、車に戻ってからもケラケラと笑う。
そして。一頻り笑い終えた後、わたしは助手席ではじめて眠りに入ってしまった(朝から少し体調が優れなかった)。
「ミナちゃん、着いたよ」というシゲルさんの声が聞こえると、目の前の風景は一変。車はレイキャヴィークの住宅街を走っている。
すぐ近くには、街のシンボル的存在でもあるハットルグリムス教会(Hallgrímskirkja, ハトルグリムスキルキャ)。
教会に程近い宿にチェックインをして、これまで履いていたスノーブーツを脱ぎ、スニーカーへと履き替える。その時に感じた足の軽さに、「ああ…アイスランドの旅が終わってしまった」と、今度は本当に思った。
どこかぽっかりとした気持ちを抱えながら、宿から一番近い、ハットルグリムス教会の前にあるカフェ(Café Loki)へ行くことにする。



店内から教会を望むことが出来るため、カフェは観光客でいっぱいだった。
わたし達も窓際のテーブルに席を取り、超ミニスカートの綺麗な店員さんに接客してもらう(普通のカフェです)。ずっと荒涼な風景に身を置いていたからか、店員さんからは物凄いシティ感!
レイキャヴィークは、なんて都会なんや…。
Lokiで注文したのは、ピョンヌキョクールというアイスランドのパンケーキ。
オランダで食べたパンケーキ(パンネンクーケン)も薄く焼かれていたけれど、ピョンヌキョクールはクレープのように薄くて、中にはクリームとジャムがサンドされている。
アイスランドに来てから食べている甘い物は、どれも素朴で本当に美味しいのだけれど、これはベリーベリーうまかった!
「もう一回、注文する?」
「なんか恥ずかしい…」
久しぶりに感じた都会のにおいに、わたしはどこかもじもじとしてしまう。。。



!!?
カフェの窓から外の様子を眺めていると、まさかのチャウチャウ!
北欧でチャウチャウだなんて!!!
シティには、なんだかシューッとした犬ばかりがいるのかな…と思っていたけれど、あのぽてぽて感とふがふが感にどっと気持ちが和んでいく。ラブ、チャウチャウ。
こんな極北の地まで、彼はどんなふうにして来たんかしら?!
(明日、再会出来ます!)



レイキャヴィークまで戻り、もう危険な道を運転することもなくなったからか、シゲルさんはどこかほっとした表情を浮かべていた。
今から八日前。ケプラヴィーク国際空港に降り立った時、ふたりで一面灰色に覆われた世界を前に力を落とす。
それから殆ど毎日、これまで走ったこともないような道を進んだ。ホワイトアウトに手足が震え、濃霧や豪雨に身体が竦む。
そんな中でも冷静にハンドルを握り続けたシゲルさんの疲労感は、きっと計り知れないものだったと思う。
シゲルさんの奮励があってこその旅だった。
わたしは感謝の気持ちを伝えるのも上手くはないし、愛情表現も下手だけれど、今回の旅を経て、この人と共に生きていけるというのはなんと心強いのだろう…そんなふうに感じている(本人には直接言わない)。
ピョンヌキョクールを「一口ちょうだい」と言って、結局半分以上食べたシゲルさんに「キーッ」となりながら、わたし達の旅は最後まで元気に続く。
(Lokiでの写真が四枚も…)



晩ごはん。
オーブンの使い方がわからずに、丸焦げになったピザ。。。